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高校野球リポート

東北大会出場を逃してレベルアップを誓う157キロ右腕・佐々木朗希

 

8回途中から緊急登板も……


157キロ右腕・佐々木が率いる大船渡高は専大北上高との岩手県大会3位決定戦で惜敗し、東北大会出場をあと一歩で逃している


 エースの登板回避。大船渡高・國保陽平監督は盛岡大付高との準決勝後(9月23日)に、翌日の3位決定戦(対専大北上高)の先発投手を問われると「明日朝の状態を見てからです」と繰り返した。157キロ右腕・佐々木朗希は前日の段階で「少し肩に張りがある」と語っていたが、実は別の原因により、先発マウンドに立てる状態ではなかった。

 負ければ終わりの高校野球。しかも、来年3月のセンバツ甲子園へ重要な資料となる東北大会出場がかかった一戦である。将来を見据え、決して無理をさせないのが國保監督のポリシーだ。189センチの佐々木は中学時代から股関節の成長痛を抱えていた。1年夏の県大会で147キロをマークして鮮烈デビューを飾った後、今度は腰の成長痛に悩まされ、秋の公式戦は登板なし。今春に153キロ、夏の初戦(2回戦)で154キロをマークして一気に、全国区となったが、3回戦は登板なくチームは敗退(佐々木は一番・中堅で先発出場)。つまり、登板間隔を空けないと、ベストパフォーマンスを発揮するのは難しかったのだ。

 トレーニングと体重アップによってスタミナを強化。初めてエース番号「1」を着けた今秋、いよいよエースが本領発揮となった。県大会1回戦から準決勝まで8日で4試合34イニング、マウンドを譲ることはなかった。盛岡大付高との準決勝は166球の力投(10奪三振)も5失点(5対7)で惜敗。勝てば「東北大会出場」の大一番を落とし、3位決定戦は、最後の枠3校目をかけた正念場であった。

 試合前ノック。佐々木は三塁ベンチからヘルメットをかぶって登場した。打っては四番の大黒柱だが、ベンチスタートを意味していた。前日の段階で左股関節に痛みを抱え、朝になって「足が上がらない」(佐々木)状況だった。

 佐々木は練習メニュー上における“副将”という立場がある。試合中は三塁コーチとしてナインを鼓舞。また、ピンチの場面では伝令役を買って出た。ヘルメットをかぶってマウンドに向かう姿も珍しい。それだけ、試合に入り込んでいた証拠だ。佐々木は前日「チーム一丸で戦う」と語っていたとおり、エース不在を全員でカバー。先発した背番号10の和田吟太は佐々木と同じ大船渡一中出身。中学3年時の大会では成長痛で万全でない佐々木に代わり、背番号1を背負ったこともある右腕だ。この和田が6回5失点と粘った。打線も奮起して、7回まで10対7とリードしていたが、8回裏に1点差とされ、なおも無死死二塁で佐々木が救援マウンドに上がった。

 ベンチではこんな動きがあった。國保監督は試合中、佐々木に終盤での代打起用を確認すると、本人は「投げたいです!!」と直訴。リードした最終回の1イニングを投げる予定だったが、味方の守備の乱れも重なり、國保監督は「難しいところ。同点までは……とも思ったが、リードしていたところで行かせた」と、前倒しでエースを投入している。一死は奪ったものの、次打者に同点適時打を浴び、なおも2連打が続いて一死満塁。ここで痛恨の押し出し四球を与え(10対11)、勝ち越しを許している。最速150キロを計測したが、専大北上高打線は力負けすることなくスイングしてきた。9回表、大船渡は無得点で、佐々木の2018年秋が終わっている。

「(コンディションは)決して良くありませんでしたが、ここまで皆が頑張ってくれたので、最後は自分が抑えて勝ちたかった。背番号1を背負っているのに、自分の仕事ができなかった。結果的に自分のせいで負けて悔しい」

強い絆を誇る仲間と甲子園へ


 試合前、佐々木の先発回避が決まると、全体ミーティングで主将・千葉宗幸は「(東北大会が行われる)秋田に朗希を連れて行こう!!」とナインを鼓舞した。「いつも朗希が良いピッチングをして、頼っている分があったので、今日は心の中で期するものがありました」(千葉)。チームワークはどこにも負けない。佐々木も「仲間の分も、自分ができることをやろうと思った」と、オーバーアクションで盛り上げ役に徹して、献身的に動いた。

 なぜ、そこまでの“思い”にさせるか。それは「大船渡愛」にある。佐々木は中学時代から141キロを計測し、強豪私学からも誘いがあった逸材だ。母・陽子さんは明かす。

「途中経過は聞いていません。本人のやりたいことを最優先させました。最終的に(地元の)『大船渡へ行く』と。報道を見て『仲間と一緒にやりたい』と、その理由を初めて知りました」

 バッテリーを組む及川惠介(高田一中)とは、KWBボール東北大会で準優勝(県大会優勝)した「オール気仙」(地域の中学校でメンバー編成)からのチームメートである。最終的に及川が電話で佐々木に大船渡高への入学意思を確認して、同校への進学を決めたという。今大会のベンチ入り20人のうち、オール気仙のメンバーは8人(大船渡一中出身はオール気仙での重複を含み8人)と、気心知れた仲間との絆は強固である。

 だからこそ、佐々木の思いは一途である。

「来年は自分が連れて行けるように、全体的にレベルアップしていきたい」

 連れていく場所とは、説明するまでもなく「甲子園」だ。事実上「一般選考枠」での来春のセンバツ甲子園出場は絶望的となった。望みは実力以外も対象となる「21世紀枠」だが、すべては各高野連関係者、そして、選抜選考委員に委ねられているため、現状ではどうすることもできない。佐々木ができることは、ただ一つ。高校で初めて1大会を投げ抜いた“財産”を胸に、目の前の課題を地道にクリアしていくことで、その先の明るい展望が拓けてくる。

文=岡本朋祐 写真=桜井ひとし
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