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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

沢村賞の在り方は時代によって変わるべきなのか?

 

200イニング以上は至難のワザ


昨年、沢村賞に輝いた巨人菅野智之


 発売中の『ベースボールマガジン』別冊、紅葉号では「沢村賞」が大特集されている。沢村賞が、一冊丸ごとフィーチャーされるのも、この雑誌ならではだろう。

 沢村賞とは、その年No.1の先発型投手に与えられる栄誉。だが、投手を巡る客観情勢は時代とともに変わっていく。今季のセ・リーグで規定投球回数に達している投手がわずか8人(10月2日現在)という数字が物語るように、いまや分業制が当たり前の時代。そのなかで、沢村賞の選考基準の一つである200イニング以上を満たすのは至難のワザといえるだろう。そうでなくてもセ・リーグにはDH制がない。沢村賞に2回輝いている巨人・上原浩治はかつて「セ、パでルールが違うと沢村賞を選ぶときの基準がぶれてしまう」と問題提起していた。

 そうした時代の流れに伴い、沢村賞の在り方を考えるのが今号のテーマの一つ。そこで、現在の選考委員長である堀内恒夫氏に「選考会の舞台裏」について聞いた。堀内氏を筆頭に、選考委員は沢村賞受賞経験のある投手出身OB5人によって構成されているが、実際に、候補者はどうやって絞られていくのか。「2001年の松坂(大輔=当時、西武)に与えるのは、俺は反対だったんだ」など、具体的、かつ興味深いエピソードも交えて語られている。

 たとえば、巨人・菅野智之の例を挙げて、「今年8完投(取材時点)しているけど、広島相手の完投がない」と、堀内氏はどちらかといえば厳しい見方をしていた。

 一方で、菅野を大いに評価していたのが、同誌でコラムを連載中の谷繁元信氏だ。いわく「いまの先発投手は沢村賞という賞にリアリティーを持てていないんじゃないですか。つまり、シーズン開幕前に、今年は200イニングを投げようという発想がまずないんです」。そこで目標にするのが規定投球回数の143イニング。この所期設定がそもそも低いというのだ。

 この話を聞いて思い出したのが、野球解説者の谷沢健一さんが現役時代に王貞治さんから言われたというアドバイス。「4割を目指せ。それでこそ3割が打てる」。要は4割を目指すぐらいの気持ちで野球に取り組むことによって結果的に3割を打てるということだ。

 現在の先発投手の中で、開幕前から200イニングという地平を見ているのは「菅野ぐらいでしょう」。谷繁氏はそう言った。菅野は昨年まで2年連続190回近いイニングを投げている。今季も192回と、200回は視界に入ってきた。それだけに、谷繁氏の話には妙に納得させられた。

 1981年には、江川卓の受賞がほぼ確実とされ記者会見まで予定されていながら、よりによって同僚のライバル、西本聖に輝き、物議を醸したことがあった。当時、西本は、現場の記者は何を感じたのは、それぞれの視点が今号では綴られている。

 沢村賞。その奥の深さを、今号を通して感じ取っていただければ幸いです。

ベースボールマガジン別冊 紅葉号



文=佐藤正行 写真=BBM
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