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伊原春樹コラム

“絶対的クローザー”が不在の現在 制球力がないと“絶対的”になれない/伊原春樹コラム

 

合格点に達するクローザーは……



 今年のプロ野球を見ていて、特に目についたことがある。“絶対的クローザー”が少ないのだ。「このクローザーが出てきたら、終わりだ」。相手に絶望感を与えるクローザーは、確かに球史をひも解いてもそうはいない。それでも、それなりの信頼感を得られているクローザーは非常に少ないように思う。

 合格点を与えられるのは中崎翔太(広島)、山崎康晃DeNA)、石山泰稚ヤクルト)くらいであろうか。パ・リーグで首位を走る西武は開幕当初、2年連続28セーブをマークしていた増田達至が務めていたが、不安定なピッチングを続けて中継ぎに転向して復調を図ったが、7月上旬に二軍落ちしてしまった。日本ハムは4年目の22歳右腕、石川直也をクローザーに抜擢。150キロを超えるストレートとフォークのコンビネーションで三振を奪えるピッチングが大きな魅力だったが、7月下旬、右内転筋肉離れのため戦線離脱してしまった。

 ソフトバンクも昨年、シーズン最多の54セーブを挙げて日本一に貢献したサファテの不在が痛く、代わりのクローザー・森唯斗も球が速いがコントロールに難がある。戦前、優勝候補に挙げられながら連覇を果たせなかったのは、最後に絶対的な存在を欠いていることが要因の一つだろう。そして今季、日本ハムからオリックスへFA移籍し、パ・リーグ1位のセーブ数を稼いでいる増井浩俊も“絶対的”の境地までは達していない。ストレートに力強さはあるが、緩急があまり使えずに力一辺倒のピッチングに終始してしまう。さらに、ストレートも精緻なコントロールがあるわけではない。

 クローザーの条件として、力強く、速いストレート、狙って三振を奪える決め球を持っていることなどが挙げられる。ゲームの最終盤でマウンドに挙がるクローザー。場合によっては犠飛や内野ゴロなどでも失点して、それが負けに直結してしまう場面もあるだろう。そんなときにバットに当てさせない、三振を奪うことが最善の結果となるだけに“三振奪取能力”は必須で備えていなければいけない条件だろう。

 ただ、それだけではいけないのは確かだ。さらに兼ね備えていなければいけないのはコントロールになる。無用なランナーを出さない。それがクローザーに求められる、大きな条件。そうでなければ絶対的な損へ上り詰めることはできないのは間違いないだろう。

最強のクローザー“ハマの大魔神”


まさに“大魔神”という存在だった佐々木。98年、横浜の34年ぶりのリーグ優勝にも大きく貢献した(左は谷繁元信


 日本球界歴代3位の通算252セーブ、メジャー・リーグでも通算129セーブをマークした佐々木主浩(横浜ほか)。長身から投げ下ろす角度あるストレートに、鋭く落ちるフォーク。そのウィニングショットはストレートと同じく回転し、打者から見分けがつけづらく、なおかつ、ストライクゾーン、ボールゾーンへ自在に落とした。カウントを稼ぐ、空振りを奪うフォークを操っていたのだ。そして、何よりも佐々木はコントロールが抜群だった。ボール先行となることは少なく、相手をあっという間に追い込んでしまう。

 打者がたとえストレートを狙っていても、速く、キレがあるから簡単にとらえられずファウルとなってしまう。ストライクゾーンで勝負できるから、四球から崩れることなどまずない。佐々木の全盛期だった1998年。横浜が38年ぶりの優勝を達成したシーズンで、45セーブを挙げて4年連続で最優秀救援投手のタイトルに輝いた。

 その防御率は驚異の0.64。さらに目を見張るのが56イニングに投げて、四死球はわずかに14個だったことだろう。今季序盤、巨人でクローザーを務めていたカミネロは佐々木とは真逆で球が速いがコントロールが悪い。それではベンチの信頼感など得られないだろう。

 2002年、私が西武監督としてリーグ優勝を果たしたとき、大きな安心感をもたらしてくれたのが豊田清(現巨人一軍投手コーチ)だ。あのときの豊田の成績を振り返ってみると57試合に登板して6勝1敗、38セーブ、防御率0.78。失点は5だけだ。ほぼ完ぺきなピッチングである。

 豊田も四隅にピシャピシャと決まるコントロールを持っていた。02年は57回1/3に投げ、四死球はわずかに4個。オーバーに言うと、ベンチで横を向いている間に2ナッシングになってしまう感覚だ。ボール先行になることはまずない。加えて豊田が素晴らしいのはストレート、フォーク、カーブと持ち球のすべてを決め球にできたことである。プロ野球の歴史の中でも3本の指に入るクローザーではないか。

 豊田が打たれた記憶はあまりないが、唯一、覚えているのが札幌ドームでの近鉄との一戦だ(02年7月6日)。6対5と1点リードで迎えた9回、豊田をマウンドに送った。二死一塁で打席には中村紀洋。ここで私もしっかりと言えばよかったのだが、豊田−伊東勤のバッテリーは外中心の攻めになってしまった。

 結局、中村に外角球を踏み込まれて打たれ、ライトスタンドに飛び込む逆転アーチ。試合後、バッテリーに「中村にはしっかりと内角も突いていこう」と話したことが思い出される。そして、翌日の同カード、同じようなシーンが訪れた。豊田はしっかりと内角を攻め、今度は中村を抑えて、チームを勝利に導いてくれた。

岩瀬の左打者への内角シュート


中日岩瀬仁紀(2009年)


 2007年から10年まで私が巨人ヘッドコーチを務めていたときは、やはり中日の岩瀬仁紀が難敵だった。プロ野球歴代1位の407セーブを挙げている左腕だが、岩瀬もコントロールが抜群だ。しかも、左打者の内角へ平気でシュートを投げる。左打者は左投手のシュートをものすごく嫌がるものだ。だが、投手にとっては少しでも制球を間違って甘くなれば長打になるし、曲がり過ぎれば打者に当ててしまうかもしれない。そう簡単にできることではないのだが、岩瀬はそれをしっかりとやってのけていた。

 阿部慎之助高橋由伸も岩瀬には手を焼いていた。シュートで内角を意識させられたところで、キレ味鋭いスライダーを外角へ投じられる。踏み込むことができずに、簡単にそれで打ち取られてしまう。左腕のクローザーといえば楽天松井裕樹がいた。結局、彼も内角へは投げられない。変化球はスライダーが主。ストレートと合わせ、少しでもキレを欠いてしまえば今季序盤のように失敗を繰り返してしまうことになる。

 阪神で“JFK”の一員だった藤川球児もクローザーとしてマウンドで仁王立ちしていた。藤川の場合はとにかくあのストレートの破壊力。いまでも150キロを超えるストレートを投げる投手はいるが、空振りを取れない投手が多い。藤川は相手が分かっていてもバットに当たらないストレート。初速と終速の差が少ないのだろう。浮き上がるように見える投球は実際、ボール球。しかし、打者が手を出して振ってしまうのは、それだけストライクに見えてしまうからなのだろう。

 とにかく、繰り返すがクローザーに必要な条件は相手を圧倒するストレートに、空振りを奪える決め球、そして何よりもそれらをしっかりと操るコントロール。それにプラスして、どのような場面で登板しても動じることなく自分のピッチングを貫く精神力、さらに年間、50試合近く登板しても耐えることのできる体力も必要だろう。

 今後、また球史に残るクローザーが出現することを期待したい。

写真=BBM
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