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巨人・菅野智之、「無理だ……」から2試合で沢村賞選考基準オールクリア

 

10月4日の敵地での広島戦で今季8度目の完封で15勝目を挙げた巨人菅野智之


 10月4日の広島戦(マツダ広島)で先発のマウンドに立った巨人のエース・菅野智之が、無四球、被安打4の完ぺきなピッチングを披露し、今季8度目の完封で15勝目を挙げた。9月22日のヤクルト戦(東京ドーム)から3戦連続の完封で、シーズン8度は1963年の伊藤芳明(10完封)以来55年ぶり。投手分業制が当然で、先発投手に求められる役割が「完投」から「試合を作る(QSを稼ぐ)」ことに変化した時代では飛び抜けた数字である。同日時点でセ・リーグで続くのが中日ガルシアの2完封、パ・リーグではソフトバンク武田翔太日本ハム上沢直之の3完封がトップだから、その価値が分かるだろう。

 菅野はこの試合で昨年初受賞している沢村賞の、7つある選考基準をオールクリア。これは11年に田中将大(当時楽天、現ヤンキース)が達成して以来のことで、セ・リーグでは93年の今中慎二(中日)まで遡らなければならない。2年連続の受賞は、ほぼ確実と言えるだろう。ここで7つの基準と現時点での菅野の成績を見てみよう(カッコ内が菅野の今季成績)。

選考基準 【1】登板試合数=25試合以上(27試合)、【2】完投試合数=10試合以上(10試合)、【3】勝利数=15勝以上(15勝)、【4】勝率=6割以上(.652)、【5】投球回数=200イニング以上(201イニング)、【6】奪三振=150個以上(200個)、【7】防御率=2.50以下(2.14)。なお、今年度より、7回で自責点3点以内という独自基準のクオリティー・スタート(QS)率を、補則項目としているが、菅野は27試合で19QSを記録しており、単純に割合を算出すると.704となる。

 圧巻の数字が並ぶが、“オールクリア”に関して、菅野は少し弱気の姿勢を見せていた。9月22日のヤクルト戦で、今季6度目の完封で13勝目を挙げた3日後、25日のことだ。週刊ベースボール本誌で連載中の、同選手コラム『THE GOAL』の打ち合わせのため、ジャイアンツ球場で調整中の菅野を訪ねると、沢村賞の話題に。この時点では4項目をクリア。近年では16年に広島のジョンソンが4項目での受賞が最少だから、候補の最有力であったことは確かだ。

 基準に届いていなかったのが【1】13勝、【2】8試合、【5】183回の3項目。レギュラーシーズン終了までに3ないし2試合の登板しか見込めないため、データを見た菅野は「無理だ〜」と表情をゆがめた。疲労がピークに達する最終盤。のこりを2試合と想定すると、2戦全てに、しかも完投で勝利しなければならない(2戦連続完投の時点で【5】はクリア)。しかも、日程の都合で登板間隔は中6日ではなく、シーズン中はほとんどなかった中5日。「無理だ」と叫ぶのも、無理はない。

 ところが、結果はご存じのとおり。9月28日のDeNA戦(東京ドーム)で完封勝利(長野久義のサヨナラホームラン)を飾ると、冒頭の広島戦である。すでにリーグ3連覇を決めている相手を寄せ付けず、9回一死では今季のリーグMVP最有力である丸佳浩からシーズン200個目の三振を奪うなど、圧倒的な力で難題をクリアしてみせた。この日の試合前、高橋由伸監督が選手に辞任を伝えており、「誰のために投げようということはあまりしないんですけど、今日はしっかり監督のために投げようと思いました」と力に変えているが、雨中の熱投は、昨春のWBC準決勝・アメリカ戦(ドジャースタジアム)の姿と重なった。

 この日の勝利で大瀬良大地(広島)に並び、ハーラーダービーでもトップに。まだ試合は残されているが、防御率、奪三振のタイトルはほぼ確実で、投手主要三冠の可能性も。なお、投手主要三冠での沢村賞受賞となれば、10年の前田健太(当時広島、現ドジャース)以来で、史上10人目の快挙となる。
文=坂本 匠 写真=BBM
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