今年、創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。 金田と豊田の冷戦
今回は『1964年8月3日号』。定価は50円だ。
首位大洋に大差をつけられていた巨人。背番号16の
川上哲治監督批判も賑やかになっていた。
相手にリードされている展開になると、本拠地後楽園でもコーチャーズボックスに立つ川上に巨人ファンが、
「川上、お前はクビだ!」「だらしないぞ、入場料を返せ!」と騒ぎ立てる。
あまりの激しさに下を向くと、すぐさま、
「川上よ、下を向いても何も落ちていないぞ。ベンチを見てみろ、選手はみんなそっぽを向いているではないか」
と追撃だ。
選手からも不満が続出していた。練習が厳しい、門限など束縛が多すぎるなどに加え、川上監督の態度にも問題があったようだ。
たとえば打撃練習が
王貞治、
長嶋茂雄の打撃練習が長くなり、ほかの選手の練習時間が短いという申し出があった。この際の川上監督の言葉が、
「何を言うのだ。ON砲で全得点の3分の2をたたき出しているのだ。それほど打ちたいなら、試合前に多摩川に行って打ってこい」
反発は当然か。
若手投手起用にこだわる中尾投手コーチと、干されたベテラン陣の確執も激しさを増していた。チーム内で大学出の選手が高校出の川上監督を軽く見るような傾向があり、それが混乱を大きくしていたようだ。
7月15日の南海戦で、故障で調整が続いていた西鉄の
稲尾和久が復帰登板も2回途中KO。稲尾は「まだフルカウントから勝負するほど制球力に自信がないから、どうしても早いカウントでストライクを集めてしまう」と反省。これが5月17日以来の一軍と登板だったが、相手監督、
鶴岡一人は、
「いま投げさすのはかわいそうや」。
と一言だった。
国鉄の
金田正一は7月16日の大洋戦(神宮)で18勝目。さらに通算4000奪三振を達成した。当時のメジャー記録はウォルター・ジョンソンの3508個だ。
しかしながらチームの不振もあって金田のイライラは募る一方。特に守備を軽視し、練習をしない(と金田が見ていた)
豊田泰光との関係は最悪になっており、味方のミスに怒り、金田がベンチ内でコップを投げると、豊田が湯呑をグラウンドに投げると言った冷戦状態になっていたようだ。
では、またあした。
<次回に続く>
写真=BBM