今年、創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。 江藤慎一の闘志
今回は『1964年9月7日号』。定価は50円だ。
大洋と阪神の優勝争いが熾烈を極めている。
8月22、23日(ダブル)と甲子園で直接対決があった。その時点で首位大洋と阪神の差は0.5ゲームだったが、初戦0対0(延長14回)、2戦目3対3(延長13回)で引き分け、3戦目は大洋が3対1で勝利し、差を1.5ゲームとした。
それでもまだ大洋・
三原脩監督に余裕があり、3連戦の間、ベンチに顔を出した前阪神コーチ、当時解説者の
青田昇に「セ・リーグはずば抜けたのがいないということでしょう。大洋もあまり強くないし」と言われ、
「オリンピックの競走じゃないんだから、興行的にも一息入れて、合理的にいかにゃいかん(笑)。ある程度、突っ走ったら息を入れるのも必要だよ」と答えている。
青田という男は、毒舌ながら三原脩、
川上哲治(
巨人監督)といった一癖も二癖もある先輩に好かれる魅力があった。
南海・
野村克也の日本記録52本塁打だけでなく、戦後初の三冠王も視野に入れる巨人・
王貞治。
新記録の53本塁打については、野村がすでにこんなことを言っている。
「ワシの記録を破れるのは球界広しと言えども王しかいない。ワシにもう一度この記録を破れるかと言っても、おそらくそれは不可能だ。力にプラスする運がともなって初めてできることで、その点、王には若さに加えて力がある。ワシには遠くおよばないところだ」
なお、野村は8月21日現在34本塁打だが、阪急の
スペンサーに3本差に迫られていた。
“予言者”は、まだいる。国鉄の大エース、
金田正一だ。
「王は三冠王をとるかも分からんな」
「どうしてですか」
「ピッチャーにワシのような大記録が生まれたんだから(通算4000奪三振)、そろそろバッターのほうも大記録が生まれそうな気がするわ」
「すると首位打者は……」
「シゲ(
長嶋茂雄)や」
ガクッである。
首位打者は、この時点で長嶋茂雄、阪神・
吉田義男、
中日・
江藤慎一と競っていた。
トップに立っているのは江藤だ。
江藤は言う。
「これからまたどんなことが起こるか分からないけど、相手にとって不足のないON砲です。一丁やってやろうと思っています。やるだけやれば悔いは残らんし、さっぱりしますからね」
では、またあした。
<次回に続く>
写真=BBM