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現役最後の神宮で初ヒット!東大野球部を支えるマネジャーへ転身

 

東京六大学フレッシュトーナメントに出場


東大・吉田は早大との東京六大学フレッシュトーナメントで神宮初打席初安打を記録。この試合限りでユニフォームを脱ぎ、マネジャーに転身する


 1、2年生で行われる「東京六大学フレッシュトーナメント」を、特別な思いでプレーする東大の1年生がいた。早大とのブロックB(10月31日)で「六番・DH」で先発出場した吉田洸(神奈川・栄光学園高)だ。

 控えメンバーで編成される二軍戦(B戦)を含めて、これまで出場機会がなかった吉田。つまり、あこがれた神宮で、最初で最後の出場のチャンスを得たのである。2回裏一死走者なし。カウント1ボールからの2球目をフルスイングすると、打球は二塁手の後方に落ちる右前打。神宮初打席で初ヒットを記録し、ネット裏の記者席で見守る東大・浜田一志監督(フレッシュトーナメントでは、学生コーチが試合を指揮する)は「感動しました!! それが、野球ですよね……」と目を細めていた。

 11月の新チームからマネジャーとなる吉田にとって、今トーナメントが現役最後の舞台だった。東大では毎年8月、1年生から一人、マネジャーを選出する慣習がある。浜田監督は「マネジャーが出せない学年は、(4年生になったら)主将も出せない」と、厳しい姿勢を打ち出す。チーム運営のすべてを任されるマネジャーは最重要ポスト。最終的に決まらない場合は監督に一任されるが、浜田監督は学生間で信頼できる人物を選ぶことを望んでいるのである。

 吉田が高校時代に在籍した栄光学園高には硬式野球部がなく、軟式でプレー。3年時は県大会4強で主将(四番・一塁)を務めた。1学年上の主将には現在、東大で三番を打つ辻居新平(3年)がおり、先輩にあこがれて東大を志望。1年間の浪人を経て、赤門をたたいた。三塁手として努力を続けたが、ベンチ入りへのハードルは高い。8月から計10度にわたり学年ミーティングを重ね、10月中旬、秋のリーグ戦最終カード(対法大)のタイミングで、吉田は「チームが勝つため、良い方向に向かっていくよう、円滑に回していきたい」と、マネジャーへの転身を決意している。

 浜田監督は「人間的に素晴らしい男」と、吉田に最高のステージを用意した。それまではフレッシュトーナメントのメンバー練習にも入っていなかったが、指揮官の計らいにより合流し、早大戦に向けて万全の準備を進めてきた。そして、迎えた現役ラストゲームで初安打を放ち、浜田監督の恩に報いたのだ。

「真っすぐしか打てないので(苦笑)、甘いボールが来たら振ろうと思っていました。練習では辻居さんがティーを上げてくれました。たくさんのアドバイスもいただき、感謝しています。初安打? 何とも言えません……。感無量です。『これが最後』という状況が割り切っていける良い結果につながった。これで、マネジャーの仕事にまっとうできます!!」

 2打席目は遊ゴロで、第3打席では代打が送られた。チームは0対7、規定により7回コールドで敗れている。試合終了から約20分後、学生服に着替えた吉田は、一塁ロッカールームからすぐさま球場正面へ向かった。試合を運営する連盟事務局、各6校のマネジャーが仕事をする事務所で早速、東京六大学野球連盟・内藤雅之事務局長に挨拶。ある連盟関係者からは「ヒット打った直後にマネジャーになったのは初めてだよ!!」と、早くも歓迎ムードに包まれていた。

「神宮の打席は言葉に表せないほど、素晴らしい光景でした。一生、忘れることはないと思います」

 選手として完全燃焼し、裏方としての大学野球がスタート。今後3年間、チームのために身を粉にして働いていく。

文=岡本朋祐 写真=BBM
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