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石田雄太の閃球眼

天才が消えてしまう理由――野球界が根強く抱える問題点/石田雄太の閃球眼

 

横浜高では日本一に輝き、NPBでもMLBでも活躍。なお現役で世代トップを走る松坂大輔にもライバルがいたという


 この秋から始まった『消えた天才』(TBS系列)が興味深い。超一流のアスリートがかつて、衝撃を受けた“天才”アスリートの今を追う、という主旨の番組だ。確かに野球の世界でも、これまでにいろんな選手から「子どものときにこんなすごいヤツがいた」「高校時代、コイツには絶対にかなわないと思った」という話をいくつも聞いたことがある。

 たとえばイチローは中学時代、全国大会の準決勝で敗れた相手に仰天させられたと言った。

「兵庫県の中学校でしたけど、これはすごいチームでした。僕、ピッチャーでしたけど、同じ中学生を相手に打たれるなんてことはほとんどなかったんです。それがその兵庫の中学には、一番から九番まで全員、芯に当てられた。それはもう、あの打線のイメージは強烈でした。でも、あの中学から甲子園に出たヤツはいなかったんですよ。僕、できる範囲で調べましたから……結局、誰の名前も見つけられなかった。あの大会は彼らが優勝したんですけど、ホント、震え上がりましたよ(笑)」

 松坂大輔は中学3年の夏、全国のシニアから選抜された9人のピッチャーの中でエースにはなれなかった。松坂のいた江戸川南シニアがその直前の関東大会で越ヶ谷シニアに敗れたため、背番号1はその越ヶ谷のエースに譲ることになったのだ。球の速さでは注目されていたものの、コントロールが悪くて、2番手、もしくは3番手の評価だった。松坂がこう言っていたことがある。

「中学のときは、僕、サボりグセもありましたからね(笑)。高めに真っすぐを投げればみんな振ってくれたし、コントロールなんてそんなに大事だと思ってませんでしたから……でも、今、思い出しても僕が小学生とか中学生のとき、ピッチャーとしてすげえなと思った人、たくさんいたんですよ。身体もデカくて、球も速くてコントロールも良くて。ああ、すごいな、こういうヤツがプロに行くんだろうな、負けられないなって思ってたのに、みんな、その後、どこへいっちゃったんだろう」

 大谷翔平にもそういう存在がいた。岩手のリトルリーグ・水沢パイレーツでプレーしていた大谷は、誰より速いボールを投げ、誰よりも遠くへ打球を飛ばしていた。そんな大谷が中学1年の夏、とんでもない選手に出会う。

「ピッチャーとして投げ合ったことも、バッターとして対戦したこともないんですけど、同じ大会に出ていたすごい左ピッチャーがいたんです。これはすごかった。そのときはもう、かなわない、負けたと思いましたね。僕よりでっかくて、体すげえな、すんげえ力だな、すげえ球も投げるなと思って、上には上がいるんだなと……」

 その左ピッチャーは、リトルリーグを卒業したあと、家の近くにシニアがなかったことから、地元の中学の野球部に入る。当然、彼の力は抜きん出ていて、油断してしまう。しかも小学生のときにはリトルで硬式球を握っていたのに、中学では部活動の軟式野球。軟式のレベルなんてたかが知れていると思ってしまっただけでなく、硬式を握れば自分は全国クラスだという過信が、彼からひたむきさを奪ってしまい、練習をしなくなってしまったのだとか。それでも高校では甲子園の常連校から声がかかり、野手に転向。大学でも野球を続け、現在、社会人チームでプロを目指しているのだから、その事実からも彼の才能がいかほどだったかということが分かる。その彼に会ったとき、こんな話をしてくれた。

「今のプロ野球で、昔、一緒にやっていた人がプレーしているので、あのレベルでできるようになれば自分も行けるのかなという気持ちはあります。今は急がず、休まず、一歩ずつ……この言葉が自分に響くのは、やっぱり中学のとき、もうちょっとちゃんと練習しておけばよかったという気持ちがあるのかもしれません。正直、あのまま硬式でピッチャーを続けていたら、また違う野球人生だったのかなと思うことはあります」

 今年もドラフトが終了した。ここで名前を呼ばれた選手のほとんどは、子どもの頃から抜きん出た存在だったのだろう。それでも、おそらくは根尾昴にも藤原恭大にも、吉田輝星にも、子どもの頃、コイツはすごい、コイツに負けていたらプロ野球選手にはなれないと思わせてくれた存在がいたはずだ。そういう選手がこのドラフトで名前を呼ばれていなかったのだとしたら、それはいったいなぜなのか、すべての野球人は考えてみたほうがいいと思う。天才が消えてしまう理由の中に、もしかしたら野球界が根強く抱える問題点が見えてくるかもしれないからだ――。

文=石田雄太 写真=BBM
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