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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

難病から復活した不死鳥の第二章

 

自らの濃密な経験が大隣にとってコーチとしての糧となっていく


「こっち(左足)は熱さをほとんど感じないんですよ。だから熱いお風呂に左足から入ると熱さが分からないから、右足を入れてから『アチチチッ!』ってなる」

 そう笑いながら話す。今季限りで12年間のプロ野球生活に幕を引いた大隣憲司だ。

 大隣の野球人生を振り返るとき、ソフトバンク時代の2013年から14年にかけての紆余曲折は語り落とせない。国指定の難病である黄色じん帯骨化症を発症し、13年6月に手術。「手術をするまでは野球のことなど考えられなかった。一生、車いす生活になる可能性もあるのかな、と思っていた」。

 しかし、大隣は不死鳥のようによみがえった。翌14年、7月に一軍へ合流すると、ヤフオクドームでのオリックス戦で復帰後の初先発初勝利を飾る。それだけはない。ベンチの信頼をつかみ、リーグ優勝がかかったオリックスとの最終戦、阪神との日本シリーズ第3戦など、重要な局面で先発を任され、期待に応え、ソフトバンクの日本一に大きく貢献する。

 鮮やかな復活劇を演じはしたが、手術の影響は確実にあった。今でも左足にはしびれが残り、熱を感じにくく、右足も筋力が低下している。15年途中に左ヒジを手術してからは、再び下降線をたどることになった。

 それでも、「そこに逃げたくはない。そのことを言い訳にはしたくない」と、自分の今の体でどれだけできるかということだけを考え続けた。手術の影響で思うように動かぬ下半身。その状況を受け入れ、それでも前に進もうとした。

「(黄色じん帯骨化症の)手術の影響があった」と言えるのも、現役を退いたからこそだろう。今だから、冗談めかしながら風呂のエピソードを笑いながら話すことができる。口に出さぬことでさらに大きくなる秘めた反骨心が、大隣の体を動かす原動力となっていたはずだ。

 大隣はロッテの二軍投手コーチとして、新たなステージで新たなスタートを切っている。千葉・鴨川での秋季キャンプでは、誰よりも大きな声を張り上げながら、さっそく精力的に動き回っていた。12年間で、いいことも、苦いことも、多くのことを経験してきた。新たな立場では、その経験こそが糧になる。

 今、チームには黄色じん帯骨化症からの復帰を目指す男がいる。ブルペンを支えてきた右腕、南昌輝だ。南にとって、コーチに立場を変えながらも大隣が寄り添ってくれることの意味は計り知れない。来季、南は必ずやマウンドに戻ってくるはずだ。大隣と同じ、反骨の心を秘めながら。

文=杉浦多夢 写真=BBM
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