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石田雄太の閃球眼

すべての球場に快適な“動線”を/石田雄太の閃球眼

 

2023年3月の開場を予定する、日本ハムの新本拠地・北海道北広島市の新球場


久しぶりに知人の披露宴に招かれ驚いた。いくつも斬新な演出が施されていたからだ。最近ではウェディングプランナーという仕事が一般的になり、披露宴もいろんなバリエーションが可能になったのだそうだ。そもそも披露宴には基本形というものがあり、そこから一つでもオリジナリティを加えるとオプション料金が派生していた。だから結局はオーソドックスな披露宴になり、どの宴席も同じようなスタイルになってしまう。

 同じような話を、野球場に関して聞いたことがある。日本中にある野球場は、どこもほとんど同じ形だ。フィールドだけでなく、外観やダグアウト、スタンドはもちろん、ロッカーからトイレの位置まで、初めて行く球場でもだいたいどこにあるのか想像がつく。この国の野球場の設計図にはベースになるものがあって、オリジナリティのある球場を作ろうとするといちいちオプション料金のように高くついてしまうらしい。だからどこにできる新しい野球場も同じような形になるのだという。

 そうした常識を覆したのが広島のマツダスタジアムであり、さらに新機軸を打ち出したのが、2023年3月の開場を予定する北海道北広島市の新球場(仮称=北海道ボールパーク)だ。ファイターズの本拠地となるこのボールパーク、先日、イメージ動画が公開され、北海道だけでなく、日本中の野球好きに大いなる夢を与えた。北の大地にありながら、見慣れたドーム型ではなく、スライド式の屋根が天然芝を覆い、ガラス張りの外観が心地よい開放感をもたらす。森に囲まれ、川が流れる大自然の中に、世界がまだ見ぬボールパークが現れる。こんな画期的な球場が5年も経たないうちに現実になるなんて、なんと夢のある話だろうと胸が躍る。

 しかし夢だけなく、大事なのは現実的な利便性だということをぜひ忘れないでほしい。そこでプレーする選手にとっての利便性とは別に、観客や関係者にとって、球場にもっとも求めたいものは快適な“動線”なのではないかと思う。現在、まだ解決していないアクセス(球場への公共交通機関、球場周辺道路の整備、駐車場の確保、試合後の渋滞解消など)の問題はもちろん、さまざまな人々の球場内外での動線を、球場に出入りするすべての立場の人の目線に立って工夫してほしいのだ。

 ある球場では、男子トイレに個室が一つしかないため、いつも行列が絶えない。ある球場では人気の飲食店に行列が絶えず、野球を観る時間がずいぶん削られてしまう。またある球場では通路が狭いため、いつでもそこに人が集中して渋滞が生じるところもある。多目的ドームの中には、観客席のイスがバッテリー間に正対していないところがあって、そこだと体を捻らなければピッチャーとバッターの対決が見られないといった不具合が生じているところもある。

 球場ではビールを飲む。子どももいる。ならば、最優先はトイレだ。並ばずに済むトイレを、どの座席からも遠くないところにどれだけ用意できるか。そして買い物するときに行列を作らずに済むように、たとえば球場内だけで決済できるカードを作る。試合後の渋滞を発生させないよう、車をどうやって四方へ出すかを考えて周辺道路を建設する。用地買収が難航しているという話も聞くが、こういうところを妥協せず、理想の動線を極限まで追求したボールパークを作ってほしい。

 そして、選手とファンとの接点をどう作るか。試合前や試合後の選手とファンが触れ合う機会を作るために、たとえば選手たちのクラブハウスを、神宮のようにレフト、ライトに作るというのはどうだろう。試合前、試合後、フェンス沿いに歩く選手と、スタンドのファンの接点を作るのだ。それは取材する側にとっても実にありがたいことになる。

 今のほとんどの球場は試合後、ホームチームの選手はベンチから直接、クラブハウスに引き上げてしまい、ヒーロー以外の選手に話を聞くためには選手が着替えて、帰路に就くまで待たなければならない。熱心に残って分析やトレーニングをする選手は、試合が終わって2時間経っても出てこない場合もある。その待ち時間は本当にムダだと思う。メジャーのように試合後のクラブハウスへのアクセスが許されればそんなムダはなくせるのだが、それは今の日本では難しそうだというなら、せめてミックスゾーン(試合直後の選手に短時間の取材ができるエリア)をどこかに設けてほしい。これは新球場に限った話ではないのだが、せめて新しく作る球場には、取材する側の動線も、ぜひ考慮に入れてほしいと願う。

文=石田雄太 写真=BBM
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