通算1065盗塁の福本豊氏(左)と通算284勝の山田久志氏(右)。阪急黄金期を支えた2人の飛躍には共通点がある
栄光に近道なし――。
通算284勝を誇る、阪急の大エース・山田久志の座右の銘だ。
リーグ3連覇を含む8度の優勝に3年連続日本一、さらに数々のタイトル獲得。「1年目に一軍デビューして、3年目に日本シリーズに出た。幸せなプロ野球人生だった」と振り返る史上最高のサブマリンだが、勝利を積み上げられたのは苦悩の日々があってこそ。栄光とともに、色濃く残るのは、もがいていた時期だ。
「2年目(1970年)に17敗。ああいう勝てなかった時期があったから、その後がある。苦しい時期のほうが、思い出に残っているんですよ」
山田氏と同期入団(69年)で、ともに阪急黄金期をけん引した通算1065盗塁を誇る福本豊氏も、苦い経験を糧に飛躍した。プロ初出場は1年目の開幕戦で、
長池徳士(当時は徳二)の代走も二盗に失敗。球宴前に二軍落ちを経験して結局、ルーキーイヤーは4盗塁に終わっている。
「何が何だか分からない状況で出て。それも開幕戦。『行ってまえ』と半ば開き直り。そういう経験があって、試合の中でも練習していったんよね」
個々が悔しさを成長の肥やしとし、それがチーム力の向上につながる。個の奮起は、やがてナインの絆も生んでいく。山田、福本の両氏の取材は別日だったが、互いの守備についてのコメントから、その好循環が垣間見える。
「困ったら高めの真っすぐでセンターに打たせる。絶対にフクちゃん(福本)が捕ってくれたからね」(山田氏)
「僕は自分の頭の上を超えられたことはない。ピッチャーが頑張って投げているんやから、そりゃ必死に捕るわ」(福本氏)
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オリックス編』のインタビューで、両氏に“阪急時代”を振り返ってもらったが、話題は阪急を継ぐ“オリックス”の話題へ。1996年から23年間、優勝から遠ざかっているチームに対し、異口同音に話していたのが「いかに失敗をバネにするか」ということ。それは、自身の経験からのゲキでもあるのだろう。
阪急のレジェンドたちのように、4年連続のBクラスの悔しさを力に変えて、強さを手に入れられるか。2019年、ブレーブス時代以来となるチームロゴを『B』とするオリックス。苦闘を糧に、その一文字が再び輝くことを、偉大なOBたちも期待しているに違いない。
文=鶴田成秀 写真=BBM