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川口和久WEBコラム

佐々岡真司のカーブは、猫田の天井サーブだった?(後編)/川口和久WEBコラム

 

週べに掲載されていた佐々岡のカーブの握り




 前回のコラムは、佐々岡のカーブは、まるで猫田の天井サーブ……というところで終わった。

 来季から広島の一軍投手コーチになる佐々岡真司。カープ時代の後輩だけど、先発、リリーフとフル回転でも壊れないタフな男で、カーブが絶品だった。

 ちなみに猫田というのは、もう亡くなられたが、広島出身のバレーボール選手、猫田勝敏さん。オリンピックでも活躍したセッターで、子どものファンが多い人だった。
 この人が天井に高々と打ち上げるサーブをやっていて、俺も子どものころマネしたことがある。

 佐々岡のカーブは別に投げ上げるわけではないが、一度浮き上がるように打者に迫り、最後は急激に失速し、ストンと落ちる独特の軌道だった。

 あいつがカーブを投げるとバッターが屈伸する。浮く球で目線が上がって体も浮き、ボールかと思って見逃すと、ググッと手元で落ちてくるから、打者はその軌道を見ながら再び屈んで見送る。
 それがなんとく、猫田さんの天井サーブを受ける相手の選手みたいだな、とずっと思っていた。

 いまはユーチューブで佐々岡の現役時代の映像も見られると思うけど、楽天岸孝之のカーブともまた違う。
 初速はもっと速くて、終速はもっと遅い。近くで見ているとボールのスピン量も半端じゃなかった。親指と中指で強く深く握って、強烈に切って抜く感覚らしい。ストレートの逆、強いドライブ回転がかかった球だよね。

 この回転だとボールへの揚力は生まれないから普通ならキャッチャーに届かないような球なのかもしれないが、佐々岡は持ち前の馬力で投げ、その力が伝わらなくなった打者の手元でストンと落ちる、という感じかな。
 日米野球ではベースにも届かずに落ちた球をバリー・ボンズが空振りしたこともあったらしい。

 自分で言うのもなんだけど、俺は不調法な投手だった。コントロールも悪いし、球数も多い。
 ただ、だからといってピッチングを力任せに考えていたわけじゃない。研究はしたつもりだし、ほかの選手の体の使い方を観察し、フォームのメカニズムを考えるのは好きだった。

 そこで佐々岡のカーブの秘密を見つけたんだ。

 投手はテークバックしてから体を前に出していき、腕は遅れて出て、ムチのようにしならせて投げるんだけど、カーブだけはほかの球と違って、テークバックから体を前に持っていくときに1回止めて腕を体より先に出すような感覚で投げる。
 佐々岡は自然にそれができた。
 なぜか、分かる?

 体が硬いから。
 前屈できないくらいだからね。足首も硬くて、広島市民球場の外野のランニングでよく足をひねり、「いてえ」「いてえ」言っていた。あそこは、デコボコしてたからね。

 ただ、関節の可動域が狭い分、逆に一瞬で大きな力が出せたんだと思う。アーム式のバッティングマシンみたいなものかな。あの硬さがあってこその猫田カーブ。しっかり握った球を切って抜くことができる。まさに佐々岡だけの魔球だね。
 
 バッティングもそうだった。体が硬いからなかなか体が回らず、レフト方向に球が飛ばない。ただ、その分、ポイントを近くして時々ライトにどでかい一発もあった。

 あと、体が硬いというと、不器用なのかと思うかもしれないけど、佐々岡は違う。ボール扱いのうまいタイプで器用さがあり、頭はムチャクチャ軟らかい。
 投手コーチには向いていると思うよ。

 何度も言うけど、ただ、体だけが硬いんだ。


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