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プロ野球1980年代の名選手

田代富雄 お化けのように打球が高く、遠くへ飛んでいく“オバQ”/プロ野球1980年代の名選手

 

1980年代。巨人戦テレビ中継が歴代最高を叩き出し、ライバルの阪神はフィーバーに沸き、一方のパ・リーグも西武を中心に新たな時代へと突入しつつあった。時代も昭和から平成へ。激動の時代でもあったが、底抜けに明るい時代でもあった。そんな華やかな10年間に活躍した名選手たちを振り返っていく。

80年に球団新の36本塁打


大洋・田代富雄


 ホームランか、三振か。そんなフルスイングで、多くの長距離砲が本塁打を量産し、また三振に倒れてきた。そんな“あぶなっかしさ”を、大洋の田代富雄ほど愛された男はいないのではないか。振り回さなければ巧打者なのに、一発を狙ってブンブンと振り回す。勢いに乗れば豪快な本塁打を量産するが、その勢いが止まると、あまりにもあっけなく三振。そんな“もろさ”は、1980年代、快調に勝ち進んだと思えばパッタリと勝てなくなって下位へと転がり落ちながら、どんなに弱くてもファンから見放されることのなかった大洋を象徴するかのようだった。

 最初の3年間は二軍の主力。75年にイースタンの首位打者、打点王となり、翌76年に一軍デビューも、235打数で56三振を喫して“人間扇風機”と揶揄される。だが、続く77年は開幕から5試合連続本塁打。4月だけで11本塁打を放って月間MVP、16号に到達した5月25日の時点でセ・リーグの“三冠王”だった。最終的には三塁手として初の全試合出場、初の規定打席到達でキャリア唯一の打率3割を超える自己最高の打率.302をマークして、球団新記録となる35本塁打を放ったが、自己最多の118三振。ただ、これでファンの心をガッチリとつかんだ。ついた愛称は“オバQ”。あのキャラクターに顔が似ているからとか、お化けのように打球が高く、遠くへ飛んでいくからとか諸説あるが、はっきりした由来は不明だ。

「ほんとうのところは僕も知らないんですよ。いつもボーッとしているからじゃないですか」

 翌78年には自己最多の104打点。その翌79年はオープン戦こそ絶不調だったが、開幕のヤクルト戦(神宮)で3打席連続本塁打を放つも、守備が固定されず一塁や外野に回り、打撃も失速していった。ただ、守備位置が安定しなければバットが湿る傾向があるかといえば必ずしもそうではなく、81年は三塁だけでなく一塁や外野にも回りながら全試合に出場して30本塁打を残しており、90三振と三振も少ない。85年には近藤貞雄監督の内野陣“裏返しコンバート”で初めて一塁に固定されたが、110試合で24本塁打、94三振と、打撃に大きな変化はなかった。好調も不調も、その原因が周囲からは分かりづらく、どことなくマイペースに見えるのも“オバQ”らしいと言える。

 雪辱を期して臨んだ80年は自己最多、自身の持つ球団記録も更新する36本塁打。固め打ちも目立ち、5月18日のヤクルト戦(静岡)でサヨナラ弾を含む3連発、29日の巨人戦(後楽園)では満塁弾を含む2連発、9月20日の中日戦(ナゴヤ)で3本塁打を放つと、翌21日の同カード、ダブルヘッダー第1試合の第1打席でも本塁打を放っている。一方で、リーグ最多の104三振で2度目の三振王。82年にも102三振で3度目の三振王となっているが、本塁打王のタイトルには最後まで縁がなかった。

ラストシーンはグランドスラム


 正一塁手として過ごした85年が最後の規定打席到達。翌86年には守備中に左手首を骨折して13本塁打に終わり、これが最後の2ケタ本塁打となる。メガネをかけて打席に立つ姿も目立つようになっていき、その姿は迷いがあるようにも映り、三振してもファンが安心していられた若手時代とは明らかに様子が違っていた。

 プロ19年目となる91年限りで現役引退。だが、その最後の打席で再び“らしさ”を取り戻す。10月10日の阪神戦ダブルヘッダー第2試合(横浜)、3回裏二死満塁で迎えた第2打席だった。それまでシーズン無安打。誰も打つとは思っていなかっただろう。“らしい”豪快な三振で三者残塁、そんな場面を想像したファンも多かったはずだ。

 ところが、かつての主砲のフルスイングは、ボールを芯でとらえる。打球は左翼席へ飛び込み、シーズン初安打、そして現役最後の安打は、まさかのグランドスラムに。通算7本目となる満塁本塁打。通算278号は、もっとも“らしい”本塁打でもあった。

「最後だから無様なバッディングだけはしたくないと思って、それだけだったんです。19年間、気を抜かずに野球をやってきた。あとで思ったのは、あれは野球の神様が最後に大きなプレゼントをくれたんだなって」

写真=BBM

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週刊ベースボール編集部

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