週刊ベースボールONLINE

MLB最新戦略事情

【MLB】GMへ華麗な転身を遂げた元大物代理人、尽くす相手は誰?

 

選手側に立つ代理人から、GMとなったワグネン。今後彼の立ち位置は球団側なのか、選手側なのか……今後の動向が気になる


 映画「007」シリーズのジェームス・ボンドのようなルックス、名門スタンフォード大で学んだ知性。このオフ、CAAの大物代理人からメッツのGMに華麗な転身を遂げたブロディ・バン・ワグネン、44歳が時の人になっている。

 球界を驚かせたのは現地時間12月3日のトレード。ロビンソン・カノ二塁手とクローザーのエドゥイン・ディアズをマリナーズから獲得。見返りは3人のマイナーの若手と2人のベテランだった。

 ワグネンは代理人時代の2013年12月、カノの10年2億4000万ドルの契約をまとめた。しかしカノは期待ほどの活躍はできず、昨季は薬物違反で80試合の出場停止。球団再建に踏み切ったマリナーズは放出しようとするが、契約はまだ5年1億2000万ドルも残っており、36歳から41歳までの契約内容で、今後は力は落ちていく一方だ。

 買い手はつかないと思っていたが、ワグネンはマリナーズに2000万ドルを払わせた上、メッツが必要としないジェイ・ブルース外野手(2年2800万ドル)、アンソニー・スワーザック投手(850万ドル)の契約を引き取らせ、商談成立となった。

 メッツは今季負け越しでナ・リーグ東地区4位だったが、新GMはカノと、昨季57セーブ、防御率1・96のディアズの補強で、来季は地区優勝を狙えると考えたのである。一方で16年の一巡指名、ジャスティン・ダン投手と、18年の一巡指名、ジャレッド・ケレニック外野手の2人を譲渡した。

 近年のMLBでは、年俸が安い将来のスター候補生を大事にし、峠を越した高額のベテランは切り捨てる傾向が強いのに、あえて反対に動いた。代理人は選手の利益を守ることが最優先だが、GMは球団を強くし、地元ファンの期待に応えねばならない。時には、力の落ちたベテランを解雇、トレードするなど、非情の決断を強いられる。

 しかしながら今回、カノに手を差し伸べたのは、GMというよりは代理人的な温情だったように見えてしまう。ワグネン自身は立場が変わったことについて「私のゴールは同じ。選手が成功できるようにサポートをすること。選手が潜在力を存分に発揮できればチームは強くなり、ファンも恩恵に預かれる。メッツを街の人々が誇りに思うチームに変える」と話すが、果たしてそううまくいくのか?

 大ベテランのスコット・ボラス代理人は、ワグネンの転身に否定的だった。「CAAの代理人が球団側に移ったことで、大谷翔平に関する(秘匿すべき)情報ファイルまでオーナー側に行く。大谷は代理人を変更すべき」と筆者に主張していた。

 選手は代理人を信頼して私生活も含めすべてを打ち明ける。話の内容は秘密であり私的なものだ。しかし今、MLBのオーナーに雇われたことで、秘密を守れなくなるというのである。メッツでプレーする大物投手ジェイコブ・デグロム、ノア・シンダーガードらも最近までワグネンが代理人を務めてきた。カノも含め関係はどうなるのか。GMとして地元ファンや球団に尽くすワグネンを見て裏切られたと感じないのか。今後の人間関係が興味深い。

文・写真=奥田秀樹
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング