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主将兼エースとして高みを目指す明大のドラフト候補右腕・森下暢仁

 

2016年の柳裕也以来の投手兼主将


明大・善波達也監督(右)は2019年の主将を右腕エース・森下暢仁(左)に託した


 立場が人を変える。その光景が、目の前で広がっていた。明大は12月25日に年内最後の練習を終え、善波達也監督とエース・森下暢仁(3年・大分商高)が応接室で取材対応。2019年のドラフト戦線において「目玉」と評価される154キロ右腕・森下は11月15日の新チームから主将となった。

 森下は小、中、高校までいずれも副将。人生初のチームリーダーに「1/2の確率だと思っていましたが、まさか、自分が……」と驚きを隠せなかった。善波監督も当初は「自分の考えは北本(一樹、3年・二松学舎大付高)」と、三塁手に主将を任せるつもりでいた。

 しかし、今秋の早大2回戦(10月14日)で、北本が右肩を脱臼するアクシデント。その後、手術を受け、しばらく戦線から離れた。同21日に秋のシーズンを終えてから2週間……。善波監督は最上級生となる森下の動きを注視していた。森下はどちらかというとおとなしいタイプで、人前で話すのも苦手のほうだった。しかし、指揮官の目には、チームをけん引していく姿勢に見えた。北本が戻った後に再度話し合い、主将・森下が決定した。

 善波監督はその内情を明かす。

「結果として(森下が主将となることで)チームが良くなるかな、と。主将とマネジャーには私に物を言えるほどでないとダメだ、と話しているのですが、この1カ月半でだいぶ、変わってきている。練習中、私が嫌味を言うと、森下が率先して『そんなこと言わせていいのか!!』『言わせないようにいくぞ!!』と強烈な指示を出すんです。結構、怖いな〜と(苦笑)。スタートしてみると、意外と頼もしい」

 明大で投手が主将を務めるのは、16年の柳裕也(現中日)以来。ちょうど、森下が明大に入学した年であり、同秋のリーグ戦前からシーズン終了までの約4カ月間、同部屋で3学年上・柳の振る舞いを間近で見てきた。

「弱いところを見せない人でした。柳さんが大変そうだったというよりも、周りの人たちが助けていた。1人では、何もできない。あのチームがあこがれです。今も北本、学生コーチの川村(勇斗、3年・高知西高)ら、周りに支えてもらっていることに感謝しながら、自分のことにも集中できている。優勝するため、自分の結果もそうですが、周りを巻き込んでいきたい。腕の見せどころだと思う」

 善波監督も「柳みたいな、ではなく、今のメンバーで期待できる空気感がある。森下もラスト1年、成長の1年にしてほしい」と、16年秋以来のV奪回へ手応えを口にしている。

有終の美を飾り1位でプロへ


 柳は4年時、主将として明大を春秋連覇へ導き、ドラフト1位という最高の結果で、学生ラストイヤーを有終の美で飾った。「自分としても、その形が理想。新3年生以下で優勝経験者がいないので、後輩に勝つ喜びを伝えて卒業したい。チームが勝つためにやれば、結果的に進路(プロ)も見えてくる」とまずは、目の前の投球に専念する。

 最速148キロだった大分商高3年時も高校日本代表(侍ジャパンU-18代表)に名を連ねるなど、ドラフト上位候補だった。だが、森下は悩み抜いた末、体力不足を理由に、最終的に進学に切り替えたが「本当に大学へ来て良かったと思います」と振り返る。2、3年時には侍ジャパン大学代表でプレーし、着実にレベルアップ。技術的な向上はもちろんのことだが「先輩、OBとも話ができますし、いろいろな縁、つながりができて良かった」と、森下は大学4年間でしか味わえない、人としての成長を強調する。主将となって以降は各会合であいさつする場面も増え、善波監督も「一瞬一瞬が良い時間」と目を細める。

 立場が人を変える――。明大野球部と言えば、「御大」こと島岡吉郎元監督が提唱した「人間力野球」が、原点としてある。森下も「エース」としてだけではなく、「主将兼エース」の肩書が、その後の野球人生の活力となるのは間違いない。また、100人以上の大所帯を束ねる苦労、チームを背負う覚悟を学生の段階で味わえるのも、この上ない財産となる。

文=岡本朋祐 写真=榎本郁也
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