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プロ野球1980年代の名選手

中畑清【後編】80年代に光り輝いた“絶好調男”/プロ野球1980年代の名選手

 

1980年代。巨人戦テレビ中継が歴代最高を叩き出し、ライバルの阪神はフィーバーに沸き、一方のパ・リーグも西武を中心に新たな時代へと突入しつつあった。時代も昭和から平成へ。激動の時代でもあったが、底抜けに明るい時代でもあった。そんな華やかな10年間に活躍した名選手たちを振り返っていく。

不動の一塁手に


80年代の巨人を支えた中畑(後列)、原、篠塚(前列左から)


 プロ野球が新しい時代の姿へと変容していった象徴的な1年となった1980年。巨人の“絶好調男”中畑清にとっては、その重く、ゆるやかな流れを一身に背負ったかのようなシーズンだった。

 前年オフには“地獄”とも形容された伊東キャンプに参加。キャンプ10日目の11月8日に自打球で離脱したが、復帰すると15日には長嶋茂雄監督の猛ノックを受ける。若さみなぎるG戦士たちの中で、誰よりも声を上げた。ペナントレースでは22本塁打を放って、初めて規定打席に到達。だが、オフには逆風が吹く。長嶋監督がチームを去り、大学No.1三塁手の原辰徳が入団。ポジション争いが注目されたが、新たに就任した藤田元司監督の心はキャンプから揺るがなかった。

 迎えた81年。開幕戦から三塁の定位置に着いた。原はキャンプから練習を始めた二塁へ入り、二塁手の篠塚利夫が控えに。打順は開幕戦こそメジャー歴戦のスイッチヒッターでもあるホワイトに四番の座を譲ったが、4月11日の阪神戦(甲子園)で、ついに“四番・サード”で先発出場を果たす。そして第2打席でシーズン第1号となるソロ、19日の広島戦(後楽園)から2試合連続本塁打など、“絶好調男”は波に乗った。

 だが、5月4日の阪神戦(甲子園)で故障離脱。原が三塁へ、篠塚は二塁へ戻ると、ともに好調を維持して、一塁手として戦列に復帰せざるをえなかった。慣れない一塁守備をこなすことになったものの、打撃は絶好調。一塁手としての初先発となった5月27日の大洋戦(後楽園)で第1打席から本塁打を放って復活の号砲とすると、最終的にはリーグ7位、自己最高の打率.322をマークして、優勝、日本一に貢献することとなる。

「悔しいけど、俺がケガしたから、すべてうまく回ったんだね。なぜか俺は、その後も、そういうことが多いんだよ」

 と、のちに笑って振り返る。翌82年から7年連続でダイヤモンド・グラブ。希望のポジションではなかったが、それでも腐らず、新たな定位置を盤石のものにしたかに思われた。

 しかし、その一塁には次々に“刺客”が送り込まれる。続く83年にはメジャーで鳴らした強打者のスミスが入団。外野手への転向がささやかれると、春のキャンプにファーストミットだけを持って参加して意地を見せる。開幕までにスミスを外野に退けて一塁を死守するも、その開幕戦では一塁手の駒田徳広が初打席満塁弾の鮮烈デビューを飾り、自身も故障離脱。それでも復帰後は勝負強さで存在感を発揮、最終的には打率.300をマークして定位置を守り抜いた。

万感のフィナーレ


プロ最後の打席、1989年の日本シリーズで本塁打


 唯一の全試合出場となった84年には自己最多の31本塁打。選手会長にもなり、翌85年からは労働組合となった選手会の初代会長にも。87年には首位打者も争った。駒田の台頭で原が外野へ回った89年に三塁へ。満を持しての復帰のようにも見えたが、度重なる故障に苦しめられることになる。それでも、やはり腐らず、ベンチから誰よりも声を上げ続けた。だが、オフに現役引退。最終戦となった10月13日のヤクルト戦(神宮)で2ランを放って、有終の美を飾った……かと思われた。

 近鉄との日本シリーズ第7戦(藤井寺)。いきなり3連勝で王手をかけた近鉄の加藤哲郎が「巨人は(パ・リーグ最下位の)ロッテより弱い」と発言したと報じられて以降、きな臭い雰囲気も漂っていたシリーズだったが、6回表に代打で登場すると、その雰囲気は一変する。2対6と劣勢の近鉄ファンまでが声援を送った。

「巨人は嫌いやけど、中畑は好きや!」

 2球目をバット一閃。打球は左翼席へと突き刺さり、人呼んで“中畑ジャンプ”でダイヤモンドを一周すると、ベンチ裏に駆けこんで男泣き。観戦していた夫人も両手で顔をおおった。

 長嶋の引退セレモニーや、近年の演出され尽くした引退試合ではない。日本一を決める真剣勝負の頂上決戦だ。しかも遺恨試合の様相さえ呈していた一戦。そこで相手チームのファンからも万雷の拍手で迎えられ、祝福で送られる。応援してくれるファンを誰よりも愛し続けた男を、ファンもまた、誰よりも愛していた。

写真=BBM
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