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【MLB】チームロゴをヘルメットに。スポーツビジネスを変えたイエリッチ曽祖父の発案

 

ヘルメットにペインティングをするイエリッチの曽祖父、フレッド・ガーキー氏/写真=The Pro Football Hall of Fame



 2018年、打率.326、36本塁打、110打点の活躍でナ・リーグのMVPに選ばれたブリュワーズのクリスチャン・イエリッチ外野手。母方の祖父が日本人で、日系のクオーターであることは知られているが、もう一つ興味深いのは、母方の祖母の父親はフレッド・ガーキーという名前で、NFL(プロフットボールリーグ)のパイオニアアワードの初代受賞者であり、NFLの殿堂に名を刻んでいることだ。

 イエリッチ本人に聞くと「NFLの殿堂(オハイオ州カントン)は遠くて行ったことがなく、どんな風な展示かは知らない。ただ曽祖父がNFLのために素晴らしい仕事をしたことは知っているし、とても誇りに思っている」と話していた。

 1918年生まれのガーキーはユタ大でフットボールをプレーしたが、専攻はアートだった。NFLに入りロサンゼルス・ラムズでプレーしているときに、ヘルメットにラム(牡羊)の「ツノ」を塗ることを思いついた。NFL殿堂のキュレーター(学芸員)、ジェイソン・エイケンズさんは「当時のダン・リーブスオーナーに見本を見せたら気に入って、リーグから許可をもらい、48年のシーズン前、ガーキーがチームの75個のヘルメット全てにペイントをした。50年代になると、NFLの他球団や、カレッジのチームもマネてチームのロゴなどを貼り付けるようになった」と経緯を説明してくれた。

 選手としての才能も悪くはなかった。45年のクリーブランド・ラムズ時代は、ランで平均6.3ヤード、パントリターンで平均15ヤードを走り、ともにリーグ1位。46年ロサンゼルス・ラムズでもランで平均5.2ヤードは1位だった。とはいえ選手としては殿堂入りするほどではなかった。

 一方でヘルメットに塗ったロゴは、チームの象徴となり、選手やファンの忠誠心、団結心を育んでいく。人々はロゴの入ったTシャツなどキャラクター商品を買い求め、身につけた。

 18年現在、北米のスポーツビジネス市場で、収益の大きいのはチケット収入、TV放映権料、スポンサーシップ料などだが、マーチャンダイズ売上も総額141億ドルと莫大な金額になっている。ロゴが大きな役割を果たしているのは言うまでもない。NFLはガーキーの功績を高く評価し、72年にパイオニアアワードを送ったのだった。

 カントンの殿堂を訪ねてみると、陳列はささやかなもので、場所は普通の係員では分からず、キュレーターが連れて行ってくれた。プレートに「プロフットボールのために顕著で革新的な貢献をした人」とあり、8つの個人名と、1つの街の名前が刻まれていた。

 ところでイエリッチのブリュワーズにはミルウォーキーの「m」とブリュワーズの「b」を組み合わせ、グローブの中にボールが入っているユニークな絵柄のロゴがある。1978年にお目見え、82年、チームはワールド・シリーズに進出した。しかしながらその後、低迷が続くと、心機一転をとロゴを変更してしまった。それでも多くのファンが懐かしがり、要望に応えて06年に復活。先のプレーオフでは、選手たちは遠征のときはそのロゴ入りのカーペットをわざわざ運び、クラブハウスの真ん中に敷いた。そして快進撃を成し遂げた。

文=奥田秀樹
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