1980年代。巨人戦テレビ中継が歴代最高を叩き出し、ライバルの阪神はフィーバーに沸き、一方のパ・リーグも西武を中心に新たな時代へと突入しつつあった。時代も昭和から平成へ。激動の時代でもあったが、底抜けに明るい時代でもあった。そんな華やかな10年間に活躍した名選手たちを振り返っていく。

数字に表れない貢献度

　廣岡達朗監督が就任した1982年に、所沢へ移転して初のリーグ優勝、日本一に輝いた西武。チームが西武となって初の美酒でもあったが、エースの東尾修に言わせれば「紙一重」の栄冠でもあった。廣岡監督は、長くエースとしてチームを支えてきた東尾や、79年に阪神から移籍してきたスター選手で主砲の田淵幸一らを特別扱いせず、むしろ「実績も顔も関係ない。実力だけ」と槍玉に挙げた。当然、「実績と顔」を兼ね備えた選手たちは猛反発。一時は空中分解の危機にも陥った。

　そんな西武にあって、確かに田淵のような大スターという雰囲気でこそないが、「実績と顔」を兼ね備えながらも、廣岡監督に唯一、何も言われなかったのが、田淵とともに79年、地元の埼玉へ移転してきた西武に合流したプロ18年目の山崎裕之だった。

「成績はたいしたことなかったけど、廣岡さんがチームへの貢献度は一番と評価してくれたこともあって、給料は上がりましたね」

　確かに、7本塁打、34打点、打率.246と、打撃3部門では前年に遠く及ばない。それでも不動の正二塁手として122試合に出場。間違いなく初優勝、日本一に貢献している。数字に表れない攻守の好プレーこそが、この男にとって最大の持ち味だった。

　上尾高では投手と遊撃手を兼任。大宮球場で、かつて高校時代の長嶋茂雄（巨人）が打ち込んだバックスクリーンへ本塁打を放ったことで“長嶋2世”と騒がれ、3年生になると広島を除く11球団が興味を示した。そのうち、最初に声をかけてくれた東京へ65年に入団。大スターの長嶋とは対照的に、名バイプレーヤーの道を歩み始める。

　初の規定打席到達は4年目の68年。チームがロッテとなった翌69年に遊撃から二塁へ転向すると、より頭脳的な守備を要求される二塁守備に魅力を感じるようになる。守備位置は土をならすフリをしながら打者に気づかれないように修正し、一塁走者がいる場合は、その位置を的確に把握。併殺の際には送球を低くして、走者に早くスライディングさせることでスピードを殺し、できるだけ併殺を成功させるようにするなど、ポジショニングやスローイングを自分なりに工夫していった。犠打で送られた走者や、適時打を放った走者のスキを突く“隠し球”の名人としても知られる。

　柔軟で頭脳的なのは二塁守備だけではない。すべての打順を経験したが、打順が必ず一番から始まるのは試合開始だけであり、その後は打席に入る状況が変わるため、打席ごとに、どのような打撃を心がけるかを考えた。内角ストレートが得意だったが、打席に入る前に変化球を狙う素振りを捕手に見せて、得意のコースに投げさせるように仕向けるなどの駆け引きも。通算270本塁打と長打力もあったが、

「いいポイントでボールをとらえれば、力がなくても飛んでいく」

　という考えで、チームバッティングを徹底。巧みに左右へと打ち分けた。

83年に通算2000安打

　西武元年の79年。敗戦後に若手がジャンケンで洗濯物を運ぶ係を決めていたのを見て、

「お前ら悔しくないのか！」

　と一喝したことがあったという。廣岡監督の厳しさもプロなら当然と苦にせず。東尾や田淵とは違う立場で、チームの支柱となっていく。

　西武2年目、プロ16年目の80年には自己最多に並ぶ25本塁打。連覇の83年には、9月18日、古巣のロッテ戦（西武）でプロ野球18人目の通算2000安打に到達、自己最多の82打点をマークするなど勝負強さを発揮する。巨人との日本シリーズはギックリ腰を周囲に隠して出場。鍼や薬で治療しながら、第4戦（後楽園）では本塁打も放っている。

　だが、翌84年の開幕戦で、名球界のレジェンドに与えられた打順は九番。そのまま出場機会を減らしていく。黄金時代へ突き進む西武では、世代交代も加速していた。そのオフ、ともに西武元年からプレーしてきた同い年の田淵とともに引退。現役生活20年、いぶし銀の名バイプレーヤーは去っていったが、その存在感は、さらなる黄金時代でも常勝に不可欠なものとして求められ続けていくことになる。

写真＝BBM