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プロ野球1980年代の名選手

ポンセ 『ラ・クカラーチャ』の明るい調べとともに強打を発揮した“マリオ”/プロ野球1980年代の名選手

 

1980年代。巨人戦テレビ中継が歴代最高を叩き出し、ライバルの阪神はフィーバーに沸き、一方のパ・リーグも西武を中心に新たな時代へと突入しつつあった。時代も昭和から平成へ。激動の時代でもあったが、底抜けに明るい時代でもあった。そんな華やかな10年間に活躍した名選手たちを振り返っていく。

“スーパーカー・クインテット”の一角?



 1983年に発売されたファミリーコンピューター。学校が終わると近所の空き地で野球をしていた少年たちを一斉にインドア派に転じさせたのは、85年に発売されたゲームソフトの『スーパーマリオブラザーズ』だろう。マリオとルイージという口ヒゲをたくわえた外国人(に見える)の兄弟が活躍するアクションゲームだったが、その翌86年、大洋に口ヒゲをたくわえた2人の助っ人が入団する。

 1人は、敬虔なクリスチャンで、(“神主打法”とは違ったパターンで)祈るようにバットを構えたローマン。もう1人が“マリオ”と呼ばれたポンセだった。確かに、球場で彼らを見ると、ファミコンの画面で見るマリオ兄弟のように、やたらと口ヒゲが目立ち、衣服(ユニフォームの背番号)でしか区別がつかないほど。開幕は四番のローマンに続く五番で迎えたが、ローマンが2人プレーでないと登場しないルイージのように影が薄くなっていき(?)、四番打者として勝負強さを発揮して、不動の“マリオ”となっていく。

 ただ、晴れれば外で野球、雨が降れば家でファミコン、ということができた少年は、やや裕福な家庭の子であり、当時は大洋が地元チームだった80年代の少年でもある筆者を含めて、ファミコンに親しみがないファンにとっては、あまり“ポンセ=マリオ”という印象はないのではないか。むしろ、高木豊から加藤博一屋鋪要の“スーパーカー・トリオ”に韋駄天の2助っ人がクリーンアップに続く“スーパーカー・クインテット”と売り出されていたほうが印象に残っている向きも少なくない気がする。

 もともと忍者映画や時代劇が大好き。かつてボイヤーやシピン、ミヤーンら強力な助っ人たちを連れてきた腕利きの渉外担当でもある牛込惟浩が、85年オフに長距離砲のレオンを放出した近藤貞雄監督から「走れる中距離打者が欲しい」と言われ、ローマンを獲得した際に、同じブリュワーズにいたプエルトリカンにも声をかけた。親日家だったこともあり、すぐに来日が決定。牛込は「AAA級でシーズン52二塁打を放って“ミスター・ダブル”と呼ばれ、前年は21盗塁を決めている」と紹介した。

 確かに、来日1年目の86年は18盗塁。ちなみにローマンも14盗塁を決めていて、それなりに“クインテット”は機能したが、いい意味で期待を裏切ったのが、そのバットだ。2年連続で三冠王となった阪神のバースがいたため無冠に終わったが、27本塁打、105打点、打率.322。長打力に勝負強さ、安定感も兼ね備え、オフに近藤監督が退任したこともあり、その後は盗塁ではなく、不動の四番打者として、ポイントゲッターとしての役割が求められていく。

87年から2年連続で打点王に


 迎えた87年。バースと時を同じくしてパ・リーグで三冠王となった落合博満中日へ移籍、セ・リーグは2人の三冠王によるタイトル争いになるかと思われたが、無冠に終わった2人の一方で、全試合に出場して98打点で打点王に。長打率.616はリーグトップ。35本塁打は自己最多、打率.323も自己最高だった。

 翌88年は33本塁打、102打点で打撃2冠。打率は3割に届かなかったが、優勝した中日で最多勝に輝いた小野和幸、巨人のガリクソンからは打率.462、広島で最優秀防御率の大野豊からは打率.500、ヤクルト尾花高夫に対しては打率.400、阪神のキーオには打率.375と、各チームのエース格を攻略するなど、四番打者としては申し分ない働きだった。

 だが、その翌89年からはバットが湿り始める。メガネをかけ、トレードマークの口ヒゲをバッサリと剃り落として、

「朝、手入れをしていたら面倒になった」

 と語ったが、不振から脱出するための気分転換だったのは明らかだった。それでも89年は不振なりに12盗塁やリーグ最多の7三塁打、9犠飛などでチームに貢献しようとしたが、その翌90年がラストイヤーとなった。

 雨で試合が中断すれば水しぶきを上げながら本塁へヘッドスライディングするパフォーマンスも見せた。客席から送られたメキシコ民謡『ラ・クカラーチャ』の明るい調べとともに、印象を残した愛すべき助っ人だった。

写真=BBM
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