読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は内野守備編。回答者は現役時代、7度、ゴールデン・グラブ賞に輝いた、元中日ほかの井端弘和氏だ。

Q.高校でショートを守っています。サード後方のライン際に上がったフライの処理がうまくありません。そもそも誰が捕るか、という判断が難しく、レフト、サードとお見合いをしたり、深追いをして捕れない場合もあります。コツはありますか。（千葉県・17歳）

A.高く上がったフライは一生懸命に追わない

　質問の方は高校生ですから、屋外の球場でプレーし、風の影響を受けることもあるでしょう。プロでもミスが起こることがあるので、高校生が悩むのも無理はないかと思います。

　フライが上がった時点で全員が「俺が捕る！」と思うことは大事ですし、質問の場面のショート、レフト、サードも同じでしょう。しかし、フライが高く上がった場合、落ちてくるまでに時間の余裕はあるわけです。しかも、ショートなのか、サードなのか、レフトなのか、分からないようなところに上がっています。このような状況で私が大切にしていたのは、「とりあえず、“一生懸命には追いかけない”」ということです。おそらく、質問の方たちは高校生ですし、3人とも落下点を目指して全力で追いかけているのではないでしょうか。監督やコーチにもそのような指導をされていると思います。

　でも、私はその“一生懸命”がミスの元だと考えています。フライが上がった瞬間は「あれ？　俺かな？」「いや、俺じゃないな」くらいの軽い気持ちで追い、周囲から声（「俺が捕る」という意思表示の声のことです）が出たらサードなのか、レフトなのか、その選手に任せてどけばいい。逆に、いつまでも声が出なければ、さらに追ってみて、「行ける」と思えばフライが落下を始めたところで初めて声を出せばいいですし、いよいよ誰も捕る意思表示をしなければ、「じゃあ、俺が捕ろうか」と。これくらいの余裕が必要ですね。

　あまり早いタイミングで捕れる意思表示をしてしまうと、周りが自重してしまいます。実はレフトだったという場合、無理して追いかけて、やっぱり捕れないという事態になりかねませんから、注意が必要です。繰り返しになりますが、声を出すタイミングは落下点に入れたとき、しかもボールの落ち始めがベストでしょう。

“一生懸命”がミスの元と言ったのは、「自分が捕る」と思い込んで追いかけてしまうと、誰が捕るのがベストなのかの判断力が鈍り、しかも声を出すタイミングが早くなって、本来捕るべき選手を下げてしまう可能性があるからです。また、このようなライン際の打球は右打者ならインフィールドに切れ、左打者ならファウル地域へ切れていきます。「俺が！」となると、冷静な判断が効かずに追い越してしまうことにもつながります。

＜「後編」に続く＞

●井端弘和（いばた・ひろかず）
1975年5月12日生まれ。神奈川県出身。堀越高から亜大を経て98年ドラフト5位で中日入団。14年に巨人へ移籍し、15年限りで現役引退。内野守備走塁コーチとなり、18年まで指導。侍ジャパンでも同職を務めている。現役生活18年の通算成績は1896試合出場、打率.281、56本塁打、410打点、149盗塁。