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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

菊池雄星の涙に込められた渦巻く感情

 

ついにメジャーの舞台でデビューを飾った菊池


 あこがれのメジャー・デビュー、舞台は母国・日本の東京ドーム、そして敬愛するイチローが現役を退く試合。どれほどの感情がマリナーズ・菊池雄星の胸の中を去来していただろうか。

 3月21日の東京ドーム。7年ぶりの日本開催となったMLB開幕シリーズの第2戦。アスレチックスとのデビュー戦に懸ける思いの強さは、前日の開幕戦でチームが勝利を収めた直後のコメントからも容易にうかがうことができた。

「楽しみというのが一番です。不安よりも楽しみのほうが圧倒的に強い。今まで……キャンプからではなく、十数年間、準備してきたつもりですので、悔いのないように、いい出だしがしたいと思っています」

 日本でデビューを迎える可能性が浮上したキャンプでは、こう語っていた。「このタイミングでマリナーズに入り、日本で投げられるとしたらすごく縁を感じますし、僕のメジャー・デビューが東京ドームだと感慨深いです」。

 試合後には大声援を送ってくれた日本のファンに対し、「何とか5回まで最少失点で行けたのは、決して調子が良かったというわけではなく、ファンに後押ししてもらいながら、勇気をもらいながら投げることができたからだと思います」。

 そしてこの試合を最後に現役から退いたイチローだ。8回にグラウンドを去ったイチローはチームメートと最後の別れの言葉をかわしながら、菊池には「頑張れ」と一言を掛けてハグをした。菊池はあふれる涙をこらえることができず、袖口で何度も涙をぬぐっていた。

 試合後の会見。あと1人で勝利投手の権利を得られるという場面で交代を余儀なくされた自身のメジャー・デビューについては、冷静かつ滑らかに振り返っていた。ボール先行のピッチングになったが粘り強く投げられたこと、要所でいいボールが行ったこと、最後まで投げ切りたい気持ちはあるが、メジャーの流儀の中で次こそは必ず勝利を挙げるという決意――。

 だが、イチローへの思いを問われると一転、唇を固く結び、涙をこらえるように上を向きながら、1分間の沈黙。そして、「幸せな時間でした」と言葉を絞り出した。「キャンプからこの日まで、イチローさんは『日本でプレーできることはギフト』とおっしゃいましたが、僕にとってはイチローさんとプレーできた時間というのが、最後のギフトでした」。

 あまりにも多くの感情が渦巻いていたであろう、3月21日の菊池の胸の内。舞台をアメリカへと戻してリスタートするサウスポーが、母国での特別なデビュー戦で得た糧をどう血肉と化していくのか。あまりにメモリアルな第一歩を踏み出した菊池のキャリアが、これまで以上に楽しみになった。

文=杉浦多夢 写真=BBM
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