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プロ野球1980年代の名選手

槙原寛己 Gの“50番トリオ”から“先発三本柱”へ/プロ野球1980年代の名選手

 

1980年代。巨人戦テレビ中継が歴代最高を叩き出し、ライバルの阪神はフィーバーに沸き、一方のパ・リーグも西武を中心に新たな時代へと突入しつつあった。時代も昭和から平成へ。激動の時代でもあったが、底抜けに明るい時代でもあった。そんな華やかな10年間に活躍した名選手たちを振り返っていく。

高卒2年目に新人王


巨人・槙原寛己


 1983年4月16日、冷たい雨の降る甲子園球場。その先発マウンドに立ったのは、プロ2年目で、この伝統の一戦が一軍初登板となる巨人の背番号54、槙原寛己だ。

 見せ球としてカーブを投げるくらいで、卓越した身体能力から生み出される快速球で押し続け、阪神の打線は沈黙する。だが、巨人打線も阪神の継投策に苦しみ、試合は延長戦に突入。10回裏、代打の“左キラー”平田薫が左腕の山本和行から適時打を放ち、ようやく先制点を奪うと、その裏はデビューしたばかりの右腕が無失点に抑えた。145球、被安打5で初登板初完封。以降2完封を含む4連続完投勝利で、V奪還に燃える巨人の起爆剤となる。

 最終的には12勝を挙げて新人王に。開幕戦で初打席満塁本塁打の鮮烈デビューを果たした背番号50の駒田徳広、規定打席未満ながら打率.342、3打席連続本塁打も記録した背番号55の吉村禎章と“50番トリオ”として人気を集めた。なお、現在の感覚では考えにくいが、この83年は巨人で一軍のマウンドに立った投手は13人のみ。プロ2年目ながら、その存在の大きさが分かるだろう。

 ドラフト1位で82年に巨人へ入団も、1年目は一軍登板なし。2年目に大ブレークを果たしたものの、投球は良く言えば本格派、悪く言えば単純。155キロを超える快速球は衝撃的だったが、その直球とカーブのみで組み立てる投球には限界があった。翌83年は肩痛もあって8勝。阪神に“バックスクリーン3連発”を許した85年は、やはり阪神戦で骨折して離脱するなど4勝に終わる。続く86年も前半戦は伸び悩んだが、球宴が終わって迎えた7月25日からの中日との3連戦だった。試合前、二塁手の篠塚利夫がブルペンで投げているのを見て、

「近くでキュッと曲がる。これだと思って教えてもらいました。わずか数日で自分のものにできたんで、やっぱり俺って天才って(笑)」

 教わったのは、ツーシームの握りのまま、ひねらない投げ方のスライダーだ。真ん中めがけて投げると外角ギリギリまで滑っていくので、制球の不安もない。打者が面食らっているのも分かった。8月から9月にかけて2完封、5完投を含む7連勝。オフに背番号も17番に変更となり、翌87年には4年ぶり2ケタとなる10勝を挙げたが、さすがはプロの世界。簡単に空振りを奪えたスライダーをファウルにさせることが多くなる。ここで、本人の言葉を借りれば、「致命的なミス」を犯してしまう。

そして“ミスター・パーフェクト”に


 スライダーは曲がりが大きいほうが打者の脅威になると考え、ひねりを大きくしたことで、曲がりも大きくなったものの、

「曲がるタイミングが早くなるし、スピードも落ちるんで、逆に打者が見極めやすくなったんですよね」

 それでも、そのスライダーはカウント球にして、フォークをウイニングショットにする新しい投球を組み立てたことで、2年連続10勝の88年はリーグ2位の防御率2.16、リーグ最多の187奪三振を記録すると、翌89年には12勝4敗と大きく勝ち越し、自己最高、リーグ2位の防御率1.79。すでに入団した当時の先発三本柱は引退や移籍で巨人を去り、斎藤雅樹桑田真澄らと新たな三本柱を打ち立てたころだ。

 80年代が成長期なら、90年代は円熟期。その後も長い活躍を続けたが、99年のリリーフ転向や相次ぐ故障に苦しみ、長嶋茂雄監督の退任セレモニーもあった2001年9月30日の横浜戦(東京ドーム)で斎藤、長くバッテリーを組んだ村田真一らとともに引退試合を行うまで、20年の現役生活をまっとうした。

 90年代もエピソードは豊富だ。やはり阪神戦で新庄剛志に敬遠球をサヨナラ打にされるなど、伝統の一戦での伝説のゲームに“やられ役”で顔を出すのも変わらなかったが、自己最多の13勝を挙げた93年オフにFA宣言も長嶋監督からバラの花束を贈られて残留、翌94年には完全試合を達成した。日本球界で最後の偉業になる可能性もあるが、平成も残すところ約1カ月。これが平成唯一の完全試合となるカウントダウンは、もう始まっている。

写真=BBM
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