「野球にかける思いが伝わってくる」
智弁和歌山・中谷仁監督(元阪神ほか)は甲子園初さい配となった熊本西との1回戦で勝利。伝統の「強打・智弁」で13得点を記録した
智弁和歌山高の主将・
黒川史陽の父・洋行さんは、上宮高(大阪)で1993年春のセンバツを制している。父と同じ主将で背番号「4」を着けた今春の甲子園を並々ならぬ決意で臨んでいた。
「監督を男にする」
甲子園歴代最多68勝を挙げた高嶋仁前監督(現名誉監督)が昨夏限りで勇退。97年夏の優勝メンバーである中谷仁監督(元阪神ほか)が名将を引き継ぎ、就任1シーズン目でセンバツ出場へ導いた。すでに2017年からコーチとして携わっており、選手の信頼は厚い。だからこそ、キャプテンの口から冒頭のような発言が飛び出した。ことあるごとに、野球ノートにも書き留めて、モチベーションを高める材料にしている。
「練習前はグラウンドにいち早く出て整備をしてくれて、全体メニュー後の自主練習も、最後の人間が引き揚げるまで指導している。野球にかける思いが伝わってくる」
春1度、夏2度の甲子園優勝を誇る高嶋前監督の後任は、相当なプレッシャーであることは間違いない。常日ごろから主将として、中谷監督と接する機会が多い黒川は、そうした空気感を察知していた。
「自分たちに見せることはありませんが、(重圧を)感じる部分はあります。一番、苦労しているのは監督。喜ばせるようなプレーをしたい」
1回戦最後のカードとなった熊本西高との初戦。2回裏に先制点を奪われたものの、直後の3回表に4連打などで逆転すると、4回は打者11人のビッグイニングで、一挙7得点で一方的な展開とした。18安打13得点で快勝(13対2)。中谷監督は甲子園初陣を白星で飾った。
通算68勝、高嶋前監督が築き上げた「強打・智弁」の看板を、中谷新監督においても、健在ぶりを見せつけたのである。「1勝」を手にした指揮官は試合後、素直に喜びを話した。
「先制されてどうなるかと思いましたが、勝てて良かったです。選手たちは落ち着いていましたが、僕のほうが緊張していました」
勝ち越し打を含む2安打2打点を挙げた主将・黒川は言う。
「強打・智弁という素晴らしい伝統を引き継いでいき、監督の言う細かいプレーも徹底したい。全力疾走、カバーリング。当たり前のことを全力でやる」
昨春、センバツで大阪桐蔭高との決勝に惜敗して準優勝。あと一歩で頂点を逃した悔しさは今でも、黒川の脳裏にこびりついている。中谷監督に恩返しし、心の底から笑顔になってほしい。新生・智弁和歌山は94年以来のセンバツ制覇へ、目の前の戦いに集中していく。
文=岡本朋祐 写真=田中慎一郎