3つの理想を掲げる右腕が、有言実行の快投を披露した。
今季初登板、新人年の2017年以来となる先発マウンドに上がった4月3日のソフトバンク戦(京セラドーム)。
オリックス・山本由伸が8回一死まで強力鷹打線を相手に無安打投球。最速153キロの直球に、140キロ台の高速カットボール、さらに110キロ台のカーブを交える緩急自在の投球で、打者を圧倒した。
圧巻の投球は、掲げる3つの理想どおりの内容だった。
2年目の昨季にセットアッパーとして台頭も、今季は先発再転向を期して、春季キャンプを過ごす中で口にしたのは次の言葉だ。
「理想は“負けない投手”。そのために“打たれない”。そして“疲れない”。この3つです。打たれないから、負けないし、球数も増えないから疲れない。これが理想の先発投手です」
快投を演じた3日のソフトバンク戦は、1安打無失点で9回を投げ終えるも、打線の援護なく試合は延長へ。結局、0対0の引き分けに終わり、山本に勝ち負けはつかず。
だが、当然“打たれない”から、負けることはなかった。それも、9イニングを投げ抜きながら、球数はちょうど100。次回登板に向けて疲労も軽減している。とはいえ、シーズンは始まったばかりで、勝負はこれからだ。当然、本人も春季キャンプから承知のことである。
「開幕直後は、問題なくプレーできると思うんですが、後半はしんどくなってくる。それは、昨年1シーズン一軍に居続けて感じたことなんです」
“疲れない”を理想に挙げる理由はここにもあるが、そのために救援登板では、あまり投じなかったカーブを投げ始め、今季は新たに
シュートも習得。打たせて取ることを念頭に置く右腕の究極の理想は「1打者に対して1球で終えること」。9回100球で終えた今季初登板は、掲げる理想の先発投手へ最高のスタートと言える。ただ、自らにとって“理想”の投球かどうかの答えが出るのはシーズン後だ。
「シーズンを通して、1イニングでも長く投げたい。先発として起用していただく以上、10勝は挙げたいと思っています。あまり数字を掲げるタイプではないんですけど、先発として『チームに貢献した』と言える数字だと思うんです。もちろん、負け数は少なく。チームが優勝するためには、1試合も負けられない」
今季2度目の登板は4月10日の
ロッテ戦(ZOZOマリン)が濃厚。“理想”に近づけるかの“最初の答え”が、ここで出る。
文=鶴田成秀 写真=佐藤真一