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【MLB】選手が抱くFAシステムへの不安感、労使が協力しての改善が必要

 

ここ2年のFA停滞の動きから若い選手が次々と所属球団と契約延長を結んでいる。今後メジャーを背負うであろうアクーニャ・ジュニアも想像以上の安価で契約した


 2018年のワールド・シリーズ後、MLBで118人のFA選手が契約した。契約総額を足し合わせると19億ドル(約2090億円)にのぼる。しかし2/3は1年契約で、30 歳以上の選手で2年以上の契約を得たのは6人に過ぎなかった。

 一方で、30人の選手が在籍球団との契約延長に合意、契約総額を足し合わせると21億ドルと、人数で4倍近いFA選手の総額を上回った。うち22件は4年以上である。契約延長が急に増えたのは2月以降だった。ブライス・ハーパー、マニー・マチャドと、FA市場の最大の目玉選手の行き先がなかなか決まらず、最終的に落ち着いた金額も、当初の予想ほど莫大ではなかった(平均3000万ドルと平均2538万ドル)。

 長い間メジャー・リーガーはFAの権利を獲得し、30球団の獲得合戦で、金額でも年数でも最大のものを得るために頑張ってきた。だが、17、18年オフとFA市場は冷え込んだ。特に30代の選手は人気がなく、31歳のダラス・カイケル、30歳のクレイグ・キンブレルのような一流選手でも依然新しいチームが決まっていない。

 若い選手がFA市場の今後に不安感を募らせる中で、球団が選手にアプローチ。フィリーズのアーロン・ノーラ(4年4500万ドル)、ヤンキースのルイス・セベリーノ(4年4000万ドル)、ブレーブスのロナルド・アクーニャ(8年1億ドル)など、潜在的な価値より低い金額で契約延長に合意している。

 特にアクーニャの契約は驚きだった。まだ21歳と若いが、マイク・トラウトレベルの評価で、毎年、MVP投票でトップ3〜5に入る活躍をすると予想されている。しかしながら今回の契約で、年俸は30歳まで最高でも1700万ドルにとどまる。トラウトは26歳からその2倍以上の3500万ドル前後の年俸を手にできたというのにである。

 もちろん若い選手が大金を提示されて、それにとびつくことは責められない。ケガをしたり、急に調子が落ちたりで、価値が急落する恐れは常にある。今回のような保証された長期契約があれば、多少調子が落ちても辛抱して使い続けてくれるし、マイナーに落とされることもない。そもそも1億ドルもあれば、それで十分。自分だけでなく、家族、親戚も一生裕福に暮らしていける。後になってサインしておけば良かったと後悔することもない。

 むしろ頭を抱えているのは選手会だろう。歴史をたどれば、彼のような特別な選手が大活躍し、年俸をこれまでになかったレベルに引き上げてきたことで、メジャー全体の給料水準も上がってきた。新しいけん引車を失ったのである。MLBの収益が順調に増える中、選手たちは不満を募らせる。現行の労使協定は2021年シーズンを最後に失効するが、FAの資格をもっと早く得られるなど、選手も報われるシステムに改善しないといけない。

 しかしながら選手会とオーナー側の関係は良いとはいえず、むしろ一触即発の状態。ロブ・マンフレッドMLBコミッショナーとトニー・クラーク選手会代表はストライキなど最悪の事態を招かないよう賢明な舵取りを求められる。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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