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私学を倒し甲子園へ!大船渡・佐々木がチームに絶対的な自信を持つこととは?

 

ともに歩んできた仲間への思い


5月2日に始まる岩手県大会沿岸南地区予選を前に、大船渡高の3選手が意気込みを語った(左から千葉主将、佐々木投手、及川捕手)


 5月2日、春季岩手県大会の沿岸南地区予選に163キロ右腕・佐々木朗希を擁する大船渡高(対戦相手は住田高と大船渡東高の勝者)が登場する。

 令和元年、初の公式戦を控えた4月29日、大船渡高は大船渡市内で記者会見を開いた。テレビカメラ6台、報道陣約30人の前で佐々木は最後の夏へ向け、ともに歩んできた仲間への思いを正直に語っている。

 佐々木は大船渡一中時代、軟式ですでに最速141キロを計測。県内の強豪校からも熱心な勧誘を受けていたが、その意志がブレることはなかった。佐々木は陸前高田市出身。2011年の東日本大震災で被災し、大船渡市へ移住した。高田小から同市内の猪川小へ転校し、大船渡一中、そして大船渡高を含めてすべて約1キロ圏内。なぜ、地元の高校を選んだのか?

「まず、私立高校を倒したかったですし、中学時代にいろいろな地元のメンバーとやってきて、このメンバーなら行けるんじゃないか? と。ここで勝つことに、意味がある。私立に行って甲子園に行くよりも、この大船渡高校の仲間と甲子園に行くことのほうが難しいですし、でも、その中で行けた経験というのは、自分にもチームにもすごく良い力になる。過程を大事に皆で、頑張りたい」

 佐々木は中学3年時、KWBボールの地域選抜チーム「オール気仙」でプレー。東北大会準優勝を飾ったが、自身は股関節らの成長痛により、満足のいくプレーができなかった。しかし、そこで感じた仲間との絆に、高校3年間をともに過ごしたいと考えたのである。この日の会見に出席した主将・千葉宗幸、バッテリーを組む捕手・及川惠介を含め、オール気仙のメンバー10人が大船渡高へ進んだ。

 東日本大震災から8年が経過したものの、津波による被害からの復興は半ばである。大船渡高は昨秋、県大会4位と東北大会出場まであと一歩に迫る大健闘を見せた。勝負の夏へ、地元は「沿岸地区から甲子園」と、佐々木をはじめとした同校への期待に活気づいている。1984年以来、35年ぶり2度目の甲子園出場への夢がふくらむ、希望の星なのだ。163キロ右腕はその空気感も十分に理解している。佐々木が大船渡高でプレーする2つめの理由だ。

「人数が少なくても『自分たちでも頑張ればできるんだ』ということを、勝って証明できればいい。岩手であったり、地元もそうですし、東北も元気づけられると思うので、それが自分たちの役割だと思っている。結果だけがすべてではありませんが、結果として勝つことが一番の恩返しになると思う」

強くなった仲間同士の絆


 岩手における公立校の夏代表は94年の盛岡四高が最後。県内には花巻東高、盛岡大付高、専大北上高、一関学院高、盛岡中央高などの強豪私学がひしめくが、大船渡高にはどこにも負けない武器があるという。佐々木は大船渡高でプレーする3つめの意義についてこう語った。

「ここまでつらい練習も一緒にやってきて、仲間同士の絆は強くなっている。ふだんの学校生活もずっと過ごしてきて、このメンバーで甲子園に行くことが大切だと思っている」

 4月5日から3日間、佐々木は高校日本代表候補として国際大会対策研修合宿に参加した。全国トップレベルの選手たちと接する充実の時間を過ごし、吸収したことをチームに還元。何度もミーティングを開いて経験談を語り、実際に練習に取り入れることもあった。しかしながら、あらためて確認できたこともあった。

「地元の仲間だけで集まって、みんながみんなうまいわけではないので、そこは一人ひとりがどんどん技術を磨いていかないといけない。ただ、(野球は)チーム競技なので、チームとして勝つことはできると思う」

 佐々木が何を訴えたいのかと言えば、仮に個々のレベルが劣っていたとしても、大船渡高には確固たる「チームワーク」に自負があるということ。大船渡高・國保陽平監督はチームの和について補足する。

「なれ合いの集団ではなくて、勝利を目指すために議論を活発にする。長いときは部室で話し合いを1〜2時間。腹を割って話せるところが、彼らの良い部分だと思います」

 主将・千葉もこう言う。

「3年間、みんなで頑張ってきた。『目標は甲子園だ』と意思統一してやってきたので、絶対に叶えたい」

 昨夏の甲子園では金足農高(秋田)が準優勝の快進撃。同じ公立校の大船渡高にとっては、勇気づけられることばかりだった。

「一生懸命さが印象的でした。練習試合でも、その強さを感じましたが『自分たちも頑張れば(甲子園に)行けるんじゃないかな』と」(佐々木)

 春の県大会の位置づけは明確だ。チームの総意として捕手・及川はこう話した。

「真剣勝負の中で冬場から取り組んできた成果を出して、沿岸南地区と県大会を勝ち上がっていきたい。試合が待ち遠しいです」

 公式戦でしか得られない課題を見つけ、夏本番までに克服する。2019年の高校野球界で最も注目されている大船渡高が、令和元年を始動する。

文=岡本朋祐 写真=菅原淳
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