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進塁の意思はリプレイされたのか? 緒方監督の退場劇に見る「ボタンの掛け違い」

 

リプレイ検証への抗議は退場


審判団に詰め寄る緒方監督


 5月4日の広島巨人戦で、リプレイ検証がからんだ興味深いシーンがあった。1回裏、菊池涼介のアウトをめぐり、抗議をした広島・緒方孝市監督が退場になったプレーだ。

 ざっと状況を再現してみよう。1回裏一死(無走者)、菊池はショートゴロを打ったが、これをさばいた坂本勇人の送球が高くそれ、捕球するファーストの中島宏之がジャンプ、ベースから足が離れた。菊池はその間に一塁ベースに到達したが、すぐには止まれずベースを通過、中島との衝突を避けようとして、フェアグラウンド側に倒れ込んだ。ベースから離れてしまった菊池は、一塁に戻ろうとして(少なくとも筆者にはそのように見えたが……)スライディングしたがタッチされ、アウトと判定された(ここも多少微妙なタイミングではあったが、中島のタッチが早いように見えた)。

 ここで緒方監督がベンチを出てきて抗議。審判団に「リクエストをしてください」と言われたとのことでリクエストをし、リプレイ検証となったが判定は変わらずアウト。そこで再び緒方監督が出てきて説明を求めたが、「リプレイ検証への抗議は退場」という決まりがあるため、退場になった、というものだ。

 こういうプレーのとき、まず前提として問題になるのは、妨害行為がなかったか、ということだが、今回の場合、これは争点になっていないので、全員「妨害はなかった」という認識のはずだ。ちなみに、妨害の有無はリプレイ検証できる項目には含まれていないので、リプレイで検証されるのは別の項目、ということになる。

 では、このプレーの場合、どこが争点となるか、というと、実はルール上は、一塁走者に進塁の意思があったかなかったか、の1点だ(ちなみに、よく勘違いされるが、走者の位置がファウルグラウンドかフェアグラウンドかは関係がない)。

 野球規則5.09b「走者アウト」には、(4)ボールインプレイで走者が塁を離れているときに触球された場合、とあるが、そこには【例外】として、「打者走者が一塁に走るときは、ただちに帰ることを条件としてならば、オーバーランまたはオーバースライドして一塁を離れているとき触球されてもアウトにはならない」というただし書きがついている。

 一方、5.09b(11)には、「一塁をオーバーランまたはオーバースライドした走者が二塁へ進もうとする行為を示せば、触球されればアウトになる」(抜粋)とある。

 基本的には、ジャッジに関しては、今回がこのどちらにあたるか、だけが問題で、進塁の意思なしとする広島側と、「二塁へ向かうと判断した」審判団で判断が分かれた、というだけのことだ。

リプレイ検証の範囲について再度確認、共通認識を


 ただ今回は、ここにリプレイ検証が絡んだことで、かえって話がややこしくなってしまったようだ。広島側と審判側の発言を総合してみると、広島側は「(進塁の意思の確認も含めて)プレー全体を見直してくれると思った」のに対し、審判側は、リクエストに関しては、アウトかセーフかのタイミングのみをジャッジした、ということのようで、リプレイ検証になったことで、かえってボタンの掛け違いが生まれてしまった、というのが今回の退場劇の要因のように思える。

 広島側は、今回の件に関して、リーグに意見書を提出、「今後、リプレイ検証の対象でないプレーにも、(可能な限り)監督の疑義に対応していく」という回答を得たことで、一件落着となりそうだが、今回のケースがアウトかセーフかは別としても、もしジャッジする側とされる側でリプレイ検証の範囲の認識に差があるのであれば、もう一度、共通の認識を作っておかないと、また似たような騒動が起こりかねない。

 後日、緒方監督が談話を出した通り、審判とユニフォーム組は別に敵対するものではない。リプレイ検証の範囲について再度確認、共通認識を持ち直してもらって、よりすっきりとしたジャッジがなされるようにしてもらいたいところだ。

文=藤本泰祐 写真=BBM
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