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【MLB】大事にし過ぎてもいけない。難しい若手投手の育成

 

投手育成で改革を行い始めたカブス。エプスタイン編成本部長(左)、ジェド・ホイヤーGM(中央)、育成部門の責任者マクロード(右)の体制でどういう成果が上がるか楽しみだ



 カブスの投手陣を見ると、いわゆる生え抜きの投手がほとんどいないことに気づく。エースのジョン・レスターダルビッシュ有らはFA市場で1億ドル以上の大金を投資した投手。カイル・ヘンドリックスも元はレンジャーズのドラフト選手でマイナー時代にトレードされてきた。なぜ生え抜きの投手が育たないのか。

 2つの理由がある。一つはセオ・エプスタイン編成本部長の考え方。「野手は育てよう、投手は買えばいい」の方針で、ドラフト上位指名権の多くは野手に使ってきた。アルバート・アルモラ・ジュニア外野手は2012年、クリス・ブライアント三塁手は13年、カイル・シュワバー外野手は14年、イアン・ハップ外野手は15年のドラフト一巡だった。

 もう一つは育成の失敗。育成部門の責任者ジェイソン・マクロードはこの春「投手の扱い方を変えた」と認めた。「これまでは型にはめ過ぎていた。ストライクをずっと投げられるメカニックかどうか、ケガをしないようピッチカウントやイニングの制限をしっかりしようなど、チェックポイントが多過ぎた。投手によってはある程度放っておき、多目に投げさせたほうが良いタイプもいる」という。

 日本のプロ野球には「即戦力」という言葉があるが、メジャーでは必ずといっていいほどファームに送る。現在マリナーズで投げているマイク・リークは1965年にMLBでドラフトが始まって以来、マイナーを経ずにメジャーでプレーした21人目の選手になり、レッズからデビューの10年は開幕から5連勝して注目された。しかしながら8月になると肩の疲労でDL入り、最後はシャットダウンとなった。

 73年のいの一番指名レンジャーズのデビッド・クライドはチケットを売りたいオーナーの意向により18歳で即メジャー・デビューしたが1年目に4勝しかできず、3年目には肩の故障に苦しみプロ生活は短命に終わった。

 89年のトップ指名、オリオールズのベン・マクドナルドもマイナーで2試合9回を投げただけでデビュー。オリオールズで通算58勝53敗、防御率3.89だったが、肩を痛め30歳までに引退した。トップ指名となれば契約金など投資額も少なくない。それをムダにしないためにも、若手投手はまずマイナーに送り、正しいメカニックを学ばせ、時間をかけてプロの長いシーズンに慣れさせるのが原則になったのである。

 とはいえ前述のとおり、安全に慎重に育てればうまくいくかといえば、必ずしもそうとは限らない。カブスはメジャーに若い優秀な野手がそろったため、16年のドラフトは38の指名権で27人の投手を指名、17年は一巡のブレンドン・リトル、アレックス・ランジをはじめ、トップ6人がすべて投手だった。変更した育成方針の下、来年以降、果たして彼らは出てこられるのか? 

 ちなみに社会人からダイヤモンドバックスに入った吉川峻平投手は、今、同球団の育成システムに従ってキャリアをスタートさせている。今年のゴールは、イニング数は控えめにしても、フルシーズン、先発ローテーションを守って投げ続けること。彼も含めてアメリカのマイナーの育成が興味深い。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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