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川口和久WEBコラム

カープの迷バッテリー復活!/川口和久WEBコラム

 

達川節に酔った夜……


現役時代の2人。いやあ、達川さん若いな


 今回は、久しぶりに伝説の名バッテリー、いや迷バッテリーを組んだ話を書こう。

 先週、マツダ広島の広島─巨人戦の解説をした。空港からバスで広島市内のホテルに入ったんだけど、すごい人がいてびっくり。
 ちょうど恒例のフラワーフェスティバルがあって、もう広島中から人が集まったんじゃないかと思うくらいの大盛況。あれじゃ、空っぽの家も多かっただろうね。

 長嶋茂雄さんじゃないけど、「セコムしてますか」って言いたくなった。

 このときはW解説だったんだけど、相手を聞いてびっくりした。
 達川光男さん。俺の現役時代の“先輩”であり“女房”であり“戦友”だった人だ。
 放送では、久しぶりに生の達川節を聞き、お互い、思い出したことを話し、大いに盛り上がった。

 現役時代の達川さんは、タイムをかける間と投手にかける言葉がうまい人だった。

 突然マウンドに来て、「きょうはいい球きとるけん、どんどん行くぞ」とか、
「おい、フォークボール投げれるか」と投げたことない球を言われたり、
 これは少し違うが、「コンタクトレンズが落ちた。一緒に探してくれ」と言われたこともあった。

 前も書いたことがあるが、達川さんは投手によって完全に接し方を変えていた。対大野豊、対北別府学、対川口和久……それこそ、いくつもの顔を持つ人だった。

 俺に関しては、“乗せて”いくのが一番と思っていたんじゃないかな。強く怒られた記憶はまったくない。今思えばだが、うまく手のひらで転がしてくれた。
 一番、ありがたかった言葉は、
「3球に1球、ストライクが入れば抑えられるんよ」
 だった。
 俺みたいなノーコンは、どれほど気持ちが楽になったか。

 ただ、考えてみたら1ストライクのあとボール、ボール、1球ストライクをはさんでボール、ボールならフォアボールなんだけど、達川さんは「大丈夫。なんとかなる」と言っていたし、実際、何とかなったことが多い。

 ピッチャーを理解し、楽にさせてくれる言葉をうまくかけてくれる人だった。
 ボールが来てないのに、「おい、今日は球が走ってるな」と言ってくれたこともあった。ただ、そのときは、気が楽になったというより、こっちも自分の球が走ってないのは分かってるからカチンときてギアを上げた。もしかしたら、そこまで計算してたのかな。

 達川さんと組んだ時間が長かったこともあるのかもしれないが、俺は捕手に一番大事なのは記憶力だと思っている。
 達川さんは、それに関しては超一流だった。あの日の放送でも、俺がはっきり覚えてないことがどんどん出てきた。

 全球カーブでスリーボールから抑えたことや、15球連続でボールになったのに、無死満塁を抑えた試合とか。「そうそう、ありましたね」と、いつの間にか俺も試合そっちのけで達川節を楽しんでいた。

 達川さんは、俺を「手を振って投げる投手」と思っていたという。フルカウントになっても関係ない。制球を意識するより、思い切って腕を振って投げさせたほうがいい結果が出ると思っていたし、実際、それを続けたから勝てた投手だと言ってくれた。

 現役では、この解説の日の先発、カープの左腕、床田寛樹が、達川さん的には俺に似ていると言っていた。
「手の振りがいい。川口に似てる」ってね。
 達川さんのことだから、売り出し中の若手と比較して、俺を乗せてくれようとしたのかもしれない。

 でも、確かに床田はいいね。勝てる軌道を持ってる。
 左投手に大事なのは、右打者の外に出し入れができるかどうか。それにインコースにズバンと決まる球を交えれば、どんどん打者が感じるストライクゾーンを外に広げることができる。
 久々登場のカープの和製先発左腕。ぜひ大成してほしいな。

 それにしても達川さんとの解説は面白かった。また機会があれば、よろしくお願いします。

 そういえば昔話に花が咲き過ぎて、プロデューサーに、
「試合の話をしてくださいよ」
 と言われちゃったけどね。

写真=BBM
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