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高校時代の恩師が語る村上宗隆がブレークした3つの要因

 

5月11日現在、10本塁打を放っている村上


 高卒2年目のヤクルト村上宗隆が大ブレークしている。なぜ、19歳がここまで活躍できるのか九州学院高(熊本)時代の恩師・坂井宏安監督は3つの要因について語ってくれた。

 まずは、技術面。

 打撃における3つの特長を挙げる。「広角に打てる。左投手に強い。インコースに対応できる」。左打者ならば誰もが苦しむこの3条件を高校時代から得意分野としていたのは、プロでも大きな武器となっている。そして「皆さん、知らないようですが、実は足も速いんです、50メートル走を6.1秒で走りますから」と、動けるスラッガーであることを教えてくれた。

 次に練習量。

 高卒でのドラフト同期入団には日本ハム清宮幸太郎(早実)、ロッテ安田尚憲(履正社高)、広島中村奨成(広陵高)らがいる。甲子園を沸かせた3人のスラッガーはドラフト1位指名受けた。村上も1年夏の甲子園に出場し、同じくドラフト1位だが、この3人と異なるのは、高校日本代表のメンバー選考からは漏れていること。

「お前は清宮世代には入っていないよ、と言ってきました。清宮と安田とは同じタイプでしたし、甲子園での実績がないから選考から外れたのは当然のこと。その悔しさが原動力になっているでしょうし、プロでは20代、30代の選手との競争に勝たなければ試合に出られない。とくかく、練習、練習しかない。覚悟を持っていけ、と送り出しました。練習だけはできる子。意外とへこたれないんです」

 昨年のオフも年末、熊本に帰省すると12月31日まで九州学院高のグラウンドで練習を続け、元旦だけ休んで、2日には早速始動。4日にはそのまま熊本から羽田空港へ向かい、海外自主トレ先に飛んでいったという。まさしく正月返上で練習を積んできたのである。

 そして、環境・待遇面に感謝する。

「あの選手層の中でも我慢して使ってもらっている。球団の育成方針が、村上にとっては幸運と言えるでしょう。(守備で足を)引っ張っても(打撃で)最低限の返しはしている」

 そして、冗談交じりにこう続ける。

「野球において打率3割ならば、一流打者の条件と言われますが、村上の場合も6割失敗しても、3〜4割は要所で貢献している。本来ならば守りが求められる中で、村上の場合は目をつぶってもらっていると思うんです」

九州学院高グラウンドのネット裏に座る坂井監督。村上は左翼後方のネット、さらに道を越えて、森林に打球を打ち込むことも珍しいことではなかったという


 最後にエールを送る。坂井監督は全体練習終了後、スマホ画面で教え子の「1球速報」に目を光らせる。すっかり、応援団長だ。

「ブルドーザーではありませんが、今年1年間は失敗を恐れず、前だけを見て進んでほしい。スマートなエンジンではないですから、とにかくアグレッシブに攻め続ける。ああだ、こうだ、深く考えないほうがいいですよ」

 九州学院高は歴代主将、副主将がグラウンド2カ所にあるトイレ掃除を担当するのが伝統だ。最も人が嫌がる仕事を率先することで、同期や後輩たちもついてくる。そして、皆から応援される選手になる。主将だった村上にとって、九州学院高での3年間は「人間磨きの場」だった。

 坂井監督はネット裏のイスに座り、指を差して懐かしそうに語った。

「ウチはフリー打撃では、やや劣化した飛ばないボールを使うんですが、村上は左中間のネット、道までも越えて、森林の中に打ち込んでいましたよ」

 ふだんは温厚な村上も、スイッチが入ったときは、誰も近寄れないオーラを放っていたという。オンとオフの切り替えも、超一流アスリートの条件。夏の甲子園を目指す後輩たちは、先輩のプロでの活躍を励みにし、必死にボールを追いかけていた。

文=岡本朋祐 写真=BBM
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