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川口和久WEBコラム

澤村拓一起用法に見る原監督の凄み/川口和久WEBコラム

 

澤村もマシソンパターンだったのか


ひとまず無難にスタートしたリリーフ・澤村



「まさか!」
「やっぱりな……」
 正直言えば、その両方だった。

 巨人澤村拓一のリリーフ起用のことだ。以前、澤村の先発転向について、澤村に逃げ道をなくさせるためだろうと書いた。
 慣れたリリーフで、今までのように結果を出したり出さなかったりを繰り返すのではなく、先発で起用し、ダメならもう使わないという通告。崖っぷちまで追い詰め、「お前は変わるのか、変われないのか」と問いかけたんだと思った。

 それが、あの人……、「先発でしか使わない」という言葉を簡単にひっくり返してしまった。

 驚いたけど、実は「もしかしたらマシソンみたいにするつもりだったのかな」とも思っていた。
 以前、書いたことがあったと思うが、マシソンが来日したとき、俺は巨人の投手コーチとして原監督の下にいた。
 マシソンは非常に強い球を持っている投手だったが、外国人選手の例にもれず、けん制ができない、セットポジションが止まらない、クイックができない、と基本的な技術は高校生以下だった。

 俺は時間がかかるだろうな、とは思ったが、リリーフは強い球があれば格好がつく。あの球があれば、走者を気にせずやらせても大ケガはしないだろう。やりながら教えていこうと思った。
 ところが、ここで原監督に言われたのが、「カワ、だったら先発をやらせようか。そうすれば本人も気づくだろう」だった。
 そのとき思わず「えっ!」って声が出た。

 そりゃそうでしょ。こっちは課題がある新外国人を任され、チームのために一番生かせる方法は何かと考えていたのに、この人は何を言っているんだってね。 

 確かに先発は、いろいろなケースが出てくる。球数も多いし、すべて力で抑えるわけにもいかない。失敗しながらも、必ず「これは直さなきゃ」と本気で思うようになる。それが修正の近道であることは確か。でも、間違いなく、数カ月はかかる。外国人にそんな時間をかけるのかという思いもあった。

 あとで「これはコーチと監督の考え方の違いなんだな」と思った。
 コーチは今いる戦力をいかにいい状態で起用するかを考えるけど、監督は、というか、これは原監督だからかもしれないけど、数カ月は捨ててもいい、その後、もっといい状態になれば、と割り切ったんだと思う。
 まだ勝負どころは先と思っていたんだろうね。

張り巡らせた伏線



 澤村は、俺もコーチ時代、いろいろ言ったが、なかなか言うことを聞かず、ウエートばかりしていた。体のメカニズムを研究するのはいいことだと思うけど、発想が「筋肉をどう鍛えたら速い球が投げられるか」に偏っていた。

 実際、確かに速い球は投げていたが、あまりにピッチング練習が少ない。下半身の使い方、上体の柔らかい使い方は、ある程度、投げなきゃ磨かれない。
 だからどうしても単調なピッチングになり、打者がタイミングを合わせやすい。あいつも随分痛い目を見たはずだし、俺も、口を酸っぱくしていったが、ダメだった。頑固なヤツでね。
 
 原監督も澤村の欠点は分かっていた。
 そこで再生プランを考えたんだと思う。
 それが先発をさせる、いわばマシソンパターン。

 先発になれば、練習でも必然的に100球くらいは投げなきゃいけない。そうすれば上体だけでは無理、下半身をうまく使わなきゃと必ず感じる。対打者もそうだし、試合の中での緩急の重要さも学ぶだろう。
 実際、リリーフに戻った澤村は「脱力投法」と言いながら上体の力を抜き、下半身の左足にゴムをまいて、そこに意識を置くようにしているらしい。
 元コーチとしては、もっと早く気づけよ、だったけどね。

 ただ、原監督はたぶん、こういう可能性をコーチに言ってなかったんじゃないかな。澤村本人もそうだし、宮本和知コーチも「澤村は今年は先発、ダメなら使わない」って思っていたと思う。
 嘘を言ってたわけじゃなく、全部本気だと思う。澤村が先発で結果を出せばそのまま使う。ダメでも中盤くらいにはリリーフで使えるかもしれないし、それでもダメなら使わなきゃいいとね。
 原という監督は、そういう切り替えができる男なんだ。

 今年の巨人を見ていると、そういう餌というのか伏線みたいなものを二重三重に張り巡らせているような気がする。

 で、たぶん澤村がリリーフでも結果を出さなければ、躊躇なく二軍落ちだろう。
 すでに、そのとき誰を使うのかも原監督の中にはあると思う。

 なんだか、あの人が怖くなってきたな。

写真=BBM
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