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プロ野球1980年代の名選手

山崎賢一 “こけしバット”で脚光を浴びた80年代の“ハマの番長”/プロ野球1980年代の名選手

 

1980年代。巨人戦テレビ中継が歴代最高を叩き出し、ライバルの阪神はフィーバーに沸き、一方のパ・リーグも西武を中心に新たな時代へと突入しつつあった。時代も昭和から平成へ。激動の時代でもあったが、底抜けに明るい時代でもあった。そんな華やかな10年間に活躍した名選手たちを振り返っていく。

「手首が折れそうになるまで振った」


大洋・山崎賢一


 いま、“ハマの番長”といったら、2016年まで長くエースナンバーを背負い続け、19年に再び背番号18で後進の指導に当たっている三浦大輔のことを思い浮かべることが多いだろう。もちろん、これは間違いではない。大洋のラストイヤーに入団し、横浜となって38年ぶりの優勝、日本一に貢献し、どん底の21世紀を支え続けたのだから、その称号にふさわしい存在でもある。

 ただ、まだ三浦が中学生、高校生だった1980年代の終盤、“番長”と呼ばれていたのが山崎賢一だった。辛酸をなめるのは“ハマの番長”の宿命なのだろうか。三浦も2000年代の後半からは暗黒時代とも言われる横浜、DeNAで孤軍奮闘していたが、98年の歓喜があり、万雷の喝采を贈られて去っていくことができただけ、まだ救われる部分がある。一方の“初代”は、同様の暗黒時代で数少ない輝きとなりながらも、追われるようにチームを去っていった。

 埼玉の所沢商高では3年の夏、県大会で準々決勝敗退。監督に勧められて西武と大洋の入団テストを受けた。地元の西武は不合格。一方、大洋の首脳陣に打撃を評価されて、ドラフト外で81年に入団した。だが、以降4年間はファーム暮らし。二軍でも代打要員で、2年目の82年はイースタンで大洋は優勝しているが、28試合で打率.200と、とても優勝に貢献したとは言い難い。

 転機は一軍出場もないまま迎えた4年目の84年だ。やはり一軍での出番がないままシーズンを終えるが、打撃コーチを兼ねていた基満男から「ホームランバッターと競争して勝てるか?」と言われ、単打を狙う打撃に切り替える。だが、新たなノーステップの打撃フォームには、当時のバットは合わなかった。そこで出会ったのが、“こけし”の頭のようなグリップをした、いわゆる“こけしバット”だ。その秋、左肩の故障で打撃ができず、走塁と守備の練習に明け暮れたキャンプでは、ダッシュの練習で球界No.1の韋駄天でもある屋鋪要に引き離されることなく、追走。これで自信を深めていく。翌85年には背番号も46から59に。

「選手枠(60人)の一歩手前の数字。もう後がない、と思った」

 と奮起。新たに就任した近藤貞雄監督が“スーパーカートリオ”に象徴される機動力野球を掲げたことも追い風を吹かせた。イースタンでは22盗塁で盗塁王。一軍デビューも果たし、10月16日の中日戦(ナゴヤ)プロ初本塁打も放ったが、レギュラーは遠かった。86年は加藤博一の故障で出場機会を一気に増やしたが、その87年は急失速。これで再び発奮して、88年には規定打席未満ながら左翼手としてパチョレックを一塁へ、屋鋪をベンチへ追いやる活躍を見せる。秋のキャンプでは、1400グラムのマスコットバットを、

「手首が折れそうになるまで振った」

 という。これで1000グラムを超える“こけしバット”を自在に操るパワーを身につけた。

わずか7本塁打の四番打者


 89年の大洋は、どん底だった。首位の巨人と36.5ゲーム差の最下位。5月5日の阪神戦(甲子園)で敗れてから、1度も最下位から浮かび上がることができなかった。そんなチームにあって、“こけしバット”は希望の象徴に。ポンセの不振で四番に座ると、6月21日には打率.372とピークを迎えた。

 球宴にも初出場、「広島の山崎(隆造)選手」と間違えてアナウンスされる一幕もあったが、第2戦(藤井寺)では代打で決勝タイムリーを放って優秀選手に。ペナントレースでもベストナイン、ゴールデン・グラブをダブル受賞。わずか7本塁打ながら盗塁やバントもする四番打者としても話題になり、Aクラスのチームに強いのも武器だった。ただ、まだ“こけしバット”には確信が持てず、車には常に普通のバットも積んであったという。

 だが、チームが横浜となった93年オフには高木豊や屋鋪、市川和正ら大洋時代の功労者たちとともに解雇される。ダイエーへ移籍して2年目の95年には代打で決勝本塁打を放ったが、これが最後の本塁打となった。

写真=BBM
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