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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

低迷打破への第一歩。オリックス・榊原翼が示す“姿”

 

防御率はリーグ5位の2.37を誇る榊原翼。安定感に加え、そのマウンドさばきには躍動感もある


 借金9で最下位と苦しむオリックスだが、背番号61の登板試合を見るたびに、ある言葉を思い出す。

「勝ちたい、負けたくない。打ちたい、抑えたい――。球場って多くの人の、いろんな思いが集まる場所なんです。だから、選手は重圧もかかるし、そこで結果を残すのは簡単なことではない。でも、ときに、そんな球場の雰囲気が生み出す『見えない力』を与えてくれるんです」

 そう語るのはオリックスで現在、野手総合兼打撃コーチを務める田口壮氏だ。阪神淡路大震災が発生した1995年『がんばろうKOBE』のスローガンを掲げてパ・リーグを制したシーズンを振り返ってもらった際のコメントである。“見えない力”とはファン、そして神戸の街の後押し。“一人ではない”の思いが力に変わり、“誰かのために”が選手たちの背中を押したシーズンだった。

 翌96年は前年に叶わなかった地元・神戸での胴上げを期して、見事にリーグ連覇。地元ファンの前で仰木彬監督(当時)が宙に舞った。それから、23年――。優勝から遠ざかるオリックスにあって、心を奮わせる投手が現れている。

 2016年のドラフト会議で、育成2位で入団した榊原翼だ。

 最速150キロの直球に加え、感情をむき出しにする投げっぷりの良さが魅力で、3ケタ番号を背負ってマウンドに上がった昨季のオープン戦で好投を披露して見事に支配下登録を勝ち取った。昨季終盤には先発でも好投。西勇輝、金子弌大が移籍し、空いた先発ローテ候補として昨秋から大きな期待を寄せられていた。

 だが、そんな周りの期待が重圧に変わっていく。キャンプでの紅白戦で痛打を浴び、次第に持ち味であった“感情”が隠れるように。ただ、「小さくなっていた」と自覚できたのも、“周り”の声だった。

「若月(健矢)さんや、鈴木(郁洋・バッテリー)コーチに言われたんです。『お前の良さは躍動感だ』と。『気持ちを出せば野手も、どうにかしようと思う。それでいい』と。ああ、一人じゃないんだ、と思えたんです」

 吹っ切れた右腕はオープン戦で結果を残すと、開幕先発ローテ入り。6月15日時点で10試合に先発して防御率2.37と安定感を誇り、アウトを奪うたびに“感情”をむき出しにしている。

「僕は年齢も若いですし、年上の方を前にして『ヨッシャー』と声を出すのは失礼だと思うんです。でも、純粋に1つのアウトを取りたい。その1つのアウトが取れると素直にうれしい。だから自然と声が出てしまうんです」

 援護点が少なく、3勝3敗と勝ち星こそ伸び悩んでいることに加え、闘志みなぎるマウンドさばきに『勝たせてあげたい』と思うファンも多いはず。多くの感情が交錯する球場にあって、見えない力を生み出す“姿勢”を示す右腕。あとは、チーム全体が思いを力に変えるのみ。右腕の“姿勢”は、低迷するチームが変わる一つのきっかけなっていくはずだ。

文=鶴田成秀 写真=太田裕史
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