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一般企業の管理職も参考に 「泣き虫先生」阪神・矢野監督の人心掌握術

 

ガッツポーズが代名詞となっている矢野監督


「J.T. STRENGTH & CONDITIONING」の代表取締役社長として活動しているJ.T.(高橋純一)と申します。今回は阪神矢野燿大監督についてお話しさせていただきます。

 交流戦に入り、しびれるような試合が各球場で毎日繰り広げられています。私はロッテヤクルトDeNAでコンディショニング・コーディネーターやトレーナーとして在籍していましたが、普段対戦しないチームとの試合で「この選手はすごいな。このチームのチームカラーは面白い」と新鮮に感じる機会が多かったのを覚えています。

 今年の交流戦で劇的だったのが6月9日の阪神―日本ハム戦(甲子園)です。大腸ガンから復帰した阪神・原口文仁選手がサヨナラ適時打。大病を患い、野球どころか生きることに必死だったと思います。苦難を乗り越えてグラウンドに立ち、サヨナラ安打を打った姿は阪神ファンだけでなく、全国の野球ファンが心を打たれた光景だったのではないでしょうか。

 原口選手と抱き合った矢野燿大監督の姿も印象的でした。試合後に涙を流して絶句したと報道されていました。阪神が前年の最下位から、今シーズンは3位と好位置につけているのは矢野監督の人心掌握術に拠るところが大きいと思います。

 現役時代は捕手で冷静沈着なイメージがありましたが、監督に就任した今年から選手の活躍に誰よりも喜びを露わにしています。安打を打った選手たちにベンチからこぶしを突き上げて称え、得点が入るとガッツポーズを連発。サヨナラ勝利の時は選手の輪に入って抱き合います。矢野監督のガッツポーズは「矢野ガッツ」と形容されているそうですが、自分から選手と同じ目線に歩み寄っていく姿が、チーム一丸で戦う要因になっていると思います。

 日本のプロ野球界は監督が選手にとって近寄りがたい存在でした。アマチュア球界も同じだと思います。良し悪しは別として、選手と監督の距離が遠いのが当たり前でした。矢野監督はその点で正反対だと思います。少し脱線するかもしれませんが、私が仕事で相談を受けることが多いのが、主に中小企業の経営者や管理職から「若い世代の社員とどう接していいか分からない」という悩みです。「若い世代は組織があって個人があるということを分かっていない」と嘆くことは珍しくありません。「和」を重視する50〜60歳代の管理職にとって若い世代の意識は物足りないのかもしれません。

 私は企業の円滑な組織づくりをサポートする「コーポレートコンディショニング」という仕事に携わっていますが、若い世代との意思疎通に悩む方たちにとって、矢野監督の指導者としてのスタイルはぜひ参考にしてほしいと感じます。チームの先頭に立って喜怒哀楽を前面に表現しているのは、感情に任せてやっているわけではないと思います。中日、阪神での現役時代、コーチ、二軍監督と経験を経てこの球団に必要な手法としてスタイルを確立したのではないでしょうか。若い世代は決して熱くなれないわけではありません。阪神の選手を見ていると、ベンチの顔色をうかがって委縮している選手が1人もいません。スタメンの選手も途中出場する選手も、「矢野監督を男にしたい」と意気に感じて力を発揮しているように感じます。

 ペナントレースはまだ道半ばですが、矢野監督がこれからどうチームを構築していくのかが非常に楽しみですね。

文=インプレッション・平尾類 写真=BBM
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