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プロ野球1980年代の名選手

山本和範 自由契約から南海で大ブレークした人気者/プロ野球1980年代の名選手

 

1980年代。巨人戦テレビ中継が歴代最高を叩き出し、ライバルの阪神はフィーバーに沸き、一方のパ・リーグも西武を中心に新たな時代へと突入しつつあった。時代も昭和から平成へ。激動の時代でもあったが、底抜けに明るい時代でもあった。そんな華やかな10年間に活躍した名選手たちを振り返っていく。

バッティングセンターで“浪人生活”


南海・山本和範


 1980年代には“リストラ”という言葉は現在ほど使われていなかった。あるいは、言われてさえいなかったと思う。企業を守るために功労者を切り捨てる行為は、クビ、あるいは、クビを切る、と物騒に表現されるのが一般的だった。強者にも事情があろうが、弱者にはクビを落とされたくらい深刻な事態だ。まだバブル崩壊を知らない幸せな時代、少なくとも、それほどの事態をカタカナ語で曖昧にする趣味の悪さはなかった。

 プロ野球の場合は“自由契約”だ。なんの事情も知らなければフリーエージェントとか訳してしまいそうな、この奇妙な日本語。どの球団とも自由に契約して構いませんよ、ということでは正しいのだろうが、まぁ、クビのことだ。この山本和範という男は、23年にわたる野球人生で3度、どの球団とも自由に契約して構いませんよ、と言われた。そして、そこから意地を見せて、ファンを沸かせた男だ。

 1度目は82年のオフだった。ドラフト5位で77年に投手として近鉄へ入団、外野手に転向して80年に一軍デビューを果たしてプロ初本塁打を放つも、一軍出場なく終わった82年までの6年間で6安打のみ。リストラの嵐が吹き荒れる前から、プロ野球は甘い世界ではない。知人に紹介された大阪のバッティングセンターに住み込んでバットを振り続ける日々が始まる。約1カ月、声がかかるのを待ち続けた。結果を出せなかった選手が自由に契約できるほど、やはり甘い世界でもないのだ。

 そんな“浪人”を拾ってくれたのが、就任したばかりだった南海の穴吹義雄監督だった。南海1年目となった83年は51試合に出場して30安打。チームに勢いはなかったが、若手には勢いがあった時代だ。翌84年には規定打席にこそ届かなかったが、勝負強さと安定感、秘めたパンチ力で右翼のレギュラーに定着した。7月14日のロッテ戦(川崎)ではプロ野球記録に並ぶゲーム3補殺をマークするなど、強肩を生かした外野守備でも存在感を発揮する。

 続く85年は年始からチームメートの久保寺雄二が急死するというショッキングなニュースがあったが、その悲しみを振り払うかのように初の全試合出場。主砲の門田博光が担う四番の前後、三番や五番が主な持ち場となっていった。迎えた86年には球宴にも初出場。第1戦(後楽園)では2安打1打点でMVP、第2戦(大阪)では第2打席で2ラン本塁打を放って全国区の人気選手となると、シーズンでは外野のゴールデン・グラブに輝いた。

 自己最多の21本塁打を放った88年は南海ラストイヤー。チームはダイエーとなり、故郷の福岡へ移転することになった。結果的には地元出身の人気選手としての凱旋となり、在阪チームの印象を残す他の選手と比べものにならないほどの絶大な人気を獲得する。

地元出身の人気選手として


「アイドルでいえばデビュー曲が売れなかったということ。それが南海“パイオニア”グループに入ったら売れてきて、ダイエー“コロムビア”グループに入ったら飛ぶように打てれしまったわけ(笑)」

 と自身の人気を振り返る。ダイエー元年の89年には本拠地最終戦となった10月7日の西武戦(平和台)で決勝打。新たに完成した福岡ドームで古巣の近鉄と激突した93年4月18日にはダイエーの選手として、そして日本人選手として福岡ドーム第1号となる代打本塁打を放っている。94年にはバントをしない二番打者としてオリックスイチローと首位打者を争うも、95年の守備中に右肩を負傷、オフには2度目の自由契約となる。

 そこで手を挙げたのが古巣の近鉄だった。復帰1年目、福岡ドームでの球宴で代打3ランを放つなど印象的な活躍を見せたが、99年オフに3度目の自由契約。福岡ドームでのダイエー戦で引退試合を設定される。ただ、本人は現役続行へヤル気たっぷり。シーズン初出場の試合だったが、第4打席で決勝本塁打を放ってアピールしたが、ついに獲得する球団は現れず。

「だから僕は引退していないんだけど(笑)。僕は野村(野村克也。南海ほか)さんみたいに、ボロボロになるまで、というのにあこがれた。たった1つの才能を簡単に捨てたらイカンよ」

写真=BBM
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