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ベースボールゼミナール

「力感なくボールを投じる」とは?/元阪神・藪恵壹に聞く

 

読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は投手編。回答者はメジャー・リーグも経験した、元阪神ほかの藪恵壹氏だ。

Q.力感なくボールを投じ、バッターが想像しているよりも速く感じて振り遅れるなどのリアクションを取らせることが理想というピッチャーがいます。具体的にはどういうことでしょうか。(東京都・14歳)



A.フォームとボールのギャップをうまく利用する


力感ないフォームからキレのあるボールを投げていた杉内


 バッターというのは、フォームなどにつられて、「速いボールが来るのではないか」、逆に「遅いボールが来そう」と身構えて、腕の振りに反応して動き出すことがあります。

 質問とは逆のケースですが、例えば現役時代の巨人杉内俊哉(現巨人コーチ)は、試合の序盤にストレート中心の配球を見せ、中盤以降、めいっぱい腕を振ってチェンジアップを投げて(バッターはストレートだと思ってしまいます)、バッターを牛耳る配球が非常に効果的でした。

 この杉内も力感なくストレートを投げるピッチャーの代表格です。彼の場合、試合の序盤にはゆったりとした、水の流れるようなフォームから、リリースの一瞬に力を集中して、キレのあるストレートを投じ、130キロ台後半の、決してスピードボールではないボールで打者の振り遅れ(詰まったファウルやボテボテのゴロ、空振りも多かったです)を誘っていました。だからこそ、中盤以降に、腕を振ってのチェンジアップが効果を発揮したわけです。

 このように、バッターはボールそのものではなく、打席から視界に入るフォームや腕の振りに大きな影響を受けるものです。質問のようにゆったりと「力感なく」ボールを投じられると、そのゆったりのフォームにイメージが合ってしまい、実際のスピードとのギャップが生まれて「想像しているよりも速く感じる」という状況が生まれるのです。

イラスト=横山英史


 杉内よりももっと遅いピッチャーでは、元オリックスの左腕・星野伸之さんがいますね。100キロに満たないスローカーブも大きな武器でしたが、星野さんの場合はフォームとテークバックの小ささで逆に「来ない」ボールが威力を発揮していました。元中日山本昌さんもそうですね。いずれにしても、フォームと、実際のボールが合わない。そのギャップをうまく利用して、みなバッターのタイミングを狂わせていました。

 プロ入り直後の大谷翔平(当時日本ハム、現エンゼルス)の160キロが、意外に簡単に弾き返されていたのは、フォームとボールが合っており、ギャップがなかったからです。現在はトミー・ジョン手術からの復帰待ちでピッチャーは封印中ですが、移籍前と直後はゆったりと、力感のないフォームを手に入れていましたね。

●藪恵壹(やぶ・けいいち)
1968年9月28日生まれ。三重県出身。和歌山・新宮高から東京経済大、朝日生命を経て94年ドラフト1位で阪神入団。05年にアスレチックス、08年にジャイアンツでプレー。10年途中に楽天に入団し、同年限りで現役引退。NPB通算成績は279試合、84勝、106敗、0S、2H、1035奪三振、防御率3.58。

写真=BBM
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