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プロ野球1980年代の名選手

村田兆治【後編】 “マサカリ投法”&魔球フォークの真実とは?/プロ野球1980年代の名選手

 

1980年代。巨人戦テレビ中継が歴代最高を叩き出し、ライバルの阪神はフィーバーに沸き、一方のパ・リーグも西武を中心に新たな時代へと突入しつつあった。時代も昭和から平成へ。激動の時代でもあったが、底抜けに明るい時代でもあった。そんな華やかな10年間に活躍した名選手たちを振り返っていく。

こだわり続けた真っ向勝負



 1980年代にはタブーとされていたヒジの手術に踏み切り、85年に完全復活を遂げたロッテの村田兆治。中4日が一般的だった時代、中6日、日曜日のマウンドで投げ続けて開幕から7連勝、“サンデー兆治”と呼ばれる。5月26日の阪急戦(西宮)では母をスタンドに招き、ライバルの山田久志と3年9カ月ぶりに投げ合って完投勝利を収めた。

 その後は曜日こそ変わったが、6月12日の南海戦(大阪)でも完投勝利。だが、8回裏に1点を許して完封を逃すと、コップを床に投げつけて自分自身へ怒りをぶつけた。ただ、この完封への執着心も復活の証と実感。続く20日の近鉄戦では160球を投げての完投勝利を飾っている。ついに連勝は11に。そのうち完投勝利は8試合。手術前には「もう以前の球速を投げることはできない」とも言われていて、実際に球速は落ちたが、それでも速球で真っ向勝負にこだわり続けた。最終的には17勝でカムバック賞を贈られた。

 若手時代は制球難に苦しんだ。カーブの習得も試みたが、緩い球、かわす球は打たれたら悔いが残ると、ストレートと同じ攻める気持ちで、同じ腕の振りで投げられるフォークボールに挑戦した。誰よりも速い球、誰よりも鋭いフォーク、そして誰よりも正確なコントロール。それだけを目指して築き上げたのが独特の“マサカリ投法”だった。

 若手時代に植村義信コーチから上体を突っ込むクセを指摘され、フォームの改造が始まる。右足でタメを作るため、右手で壁を支えに左足を上げ、右足だけで立つトレーニング。右足に全体重が乗っても軸のブレない強靭な下半身を作り上げると、右肩を深く落とし、右手が地面に着くくらいに重心を沈めて、右足を「く」の字に曲げる変則投法を完成させた。当初は「村田のタコ踊り」などとヤジられたが、フォームの完成に向けてトレーニングを続ける。持ち前の速球には磨きがかかり、制球力も向上。「マサカリのように空気を断ち切る」と、マスコミも称賛するようになった。

 フォークは阪急の“ガソリンタンク”米田哲也を練習の前から徹底的に観察。阪神の村山実から「フォークは握力」と言われたことも参考になり、わずかな米田の仕草から「球を挟む力」が重要なことを見抜くと、ふだんから軟式のテニスボールを2本の指に挟み、ほかにもコップや灰皿など、なんでも挟むようになっていた。

 指の力がついてくると、徐々に抜く感覚も分かってくる。だが、それまで抑えていた南海の野村克也にフォークを打たれるようになり。フォークを投げる際にグラブをチラッと見るクセを見抜かれていたのだ。まだ挟む力に不安が残っていたことを痛感すると、3キロもの鉄球を特注。それでシャドーピッチングを繰り返すなど、過酷なトレーニングで完璧な魔球を完成させた。

89年に3度目の最優秀防御率


 89年5月13日の日本ハム戦(山形)で通算200勝に到達。40歳となるシーズンだったが、防御率2.50で3度目の最優秀防御率にも。翌90年も球速は150キロ近くあったが、

「村田兆治のピッチングができなくなった」

 と、現役を引退した。引退試合では雨天コールドもあって“完封”、プロ野球2人目となる40歳代での2タ10勝に到達している。

 これまで、80年代に活躍した多くの名選手を紹介してきた。全員に共通するのは、まずチームメートとの争いに勝って定位置をつかみ、その上で相手チームに勝ち、そして優勝という頂点を目指していること。

 ただ、それ以前に、自分という強敵と戦い、打ち勝ってきた男たちだということだ。自分という敵は、もしかすると野球の実戦よりも、運命に左右されるものなのかもしれない。自らの美学に準じることができたのなら、幸運なほうなのだろう。故障や病魔で志半ばにしてグラウンドを去っていった男たちの悲運を、実力や努力の不足と断じることができようはずもない。

 この、淑子夫人をして「昭和生まれの明治男」と言わしめた右腕の強さ、美しさは、平成を経て令和となった現在にも通じる気がする。自らとの闘いに勝ち、故障との闘いに勝ち、そして美学に準じた。その生き様に普遍的な魅力があることは、当時を知る1人として、小さく断言できる。

写真=BBM
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