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“人の心”を捨てた島内宏明に涙を流させた平石洋介監督の言葉

 

勝負の夏へ、チームのためにバットを振る島内


 楽天島内宏明は「野球をするときは人の心を捨てると決めている」と話す。根が優しい島内は、その性格がスポーツの世界では足かせになることを知っているのだ。穏やかな性格でガツガツとした部分は決して見せることはなく、感情を爆発させることも少ない。普段は一風変わったコメントで人を笑わせる不思議な男。それでもプロ1年目から一軍に出場し、5年目にはレギュラーに定着するなど、その才能は誰もが認めるところだ。

 そして8年目の今季、開幕四番を務めた。4月16日の西武戦(楽天生命パーク)でアゴに死球を受けて以降は打撃での調子を崩してしまうが、それでも平石洋介監督からの信頼が揺らぐことはなかった。だが、島内自身はだんだんと、打てない悔しさを通り越し、投げやりな気持ちになっていく。

「本当にしんどくて出たくなくて、打てなくて……」

 試合中にもかかわらずベンチで下を向いている島内の隣に平石監督が座った。

「お前、そんな顔してたらあかんで」

 普段は島内のところに来て話をすることはないという。

「いつもは『頑張れ今日も』っていうような軽い感じですから」

 だが、平石監督は島内の異変を感じ取っていたようだ。

「お前が今までチームに貢献してきたから、俺は状態が悪くても出しているんだよ。今までお前が頑張ったぶんやで」

 その言葉に涙がこぼれた。

 2011年限りで引退して翌年からコーチになった平石監督と、その年のドラフトで入団した島内の師弟関係は長い。信頼する監督からの言葉が胸にしみた。

「ボロボロと泣いたわけじゃないですよ。(周りには)分からないくらい。でも、自分にも人間の感情があるんだなと思いました(笑)」

 つなぎの四番として勝負強い打撃でチームの逆転劇を何度も演出してきた。5月中旬以降は攻撃的な二番として切れ目のない打線をつくり、勝負どころでこそ光を放つ。エース2人を欠くチームを支えていた一人であったことは間違いない。

 四番に座っているときでも「プレッシャーはあまりないですね」と話す島内。それでも29歳の中堅として、苦労やもどかしさをかかえながらプレーしているのだ。その姿を見てくれ、認めてくれる監督がいる。

「もっとやらないといけないなと思いましたね」

 まだ本調子とは言えないが、ここで終わるわけにはいかない。再び人間の心をしまい、勝負の夏へ、もう一段ギアを上げる。

文=阿部ちはる 写真=BBM
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