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なぜソフトバンクは育成出身が活躍するのか? 藤本博史三軍監督に聞く若鷹育成論

 

ソフトバンクは資金力にモノを言わせているわけでは決してない。人材育成面でも行き届いている。そこでの肝は圧倒的な格差を見せつけることによる三軍選手のハングリー精神の醸成。三軍を預かる藤本監督に話を聞いた。

内川、松田に代わる右の大砲候補は砂川と黒瀬


ソフトバンク・藤本博史三軍監督


――三軍とは何か、教えてください。

藤本監督(以下、藤本) はっきり言ってプロにはまだまだ、3年間をかけて成長してもらう選手が多いですね。3年で大学4年生と同じレベルだとダメだと思うんです。そのときには大学生のドラフト1位に匹敵する選手になっていないといけない。大学はアマチュアですけど、こっちはお金をもらって野球をしている以上はプロ。その3年でどれだけやるかで技術が変わってくるんじゃないですか。

――育成で心がけている点は?

藤本 いいものを伸ばしてあげることを考えてやっています。人によって違うんですけど,
Aは打撃をもっとアピールできるようにしないといけない、Bは守備が先といった具合に分けてやる。攻守走の三拍子を同時に底上げするんじゃなく、まず打つほうをアピールしてから守備力を徐々に上げていく。バッティングの中でもクセのある選手が多い。そのクセを初めから直していったら結構時間がかかるんです。それよりまずはプロレベルのスイングができるように、というところからやっています。クセの修正は後でできることなので。

――基本的に、三軍というのは育成選手とイコールと考えていいのですか。

藤本 ほぼ育成選手ですね。背番号100番台は5人までしか二軍のゲームに出られないという規則があるので、なかなか二軍に上がることはできない。いま支配下選手で三軍にいるのは野村(野村大樹)ぐらいですかね。

――いいところを伸ばしていくという意味では、甲斐拓也選手もそういう方針の下で育成されたのでしょうか。

藤本 甲斐が入ってきたときに僕は二軍の打撃コーチだったんですけど、当時バッティングはまったくできない状態でした。でも、肩はピカ一。そこに磨きをかけたからこそ現在の甲斐があると思うんですよね。バッティングはまだまだだと思いますけど、12球団一のキャッチャーになりつつあります。

――今季、支配下登録された周東佑京選手も一軍で活躍しています。

藤本 周東も足が速くて一軍で結果を出しています。守備はまだまだ発展途上、今後試合をやっていく中で技術はもっと上がっていく。そういう選手が三軍の中から出てくればいいですね。

――有望選手はいますか。

藤本 内川(内川聖一)、松田(松田宣浩)が年齢的にベテランの域に差し掛かってきています。世代交代じゃないですけど、彼らに代わる右の大砲がこの三軍から生まれればいいかなと。黒瀬(健太)は支配下選手として3年で芽が出なくて今年から100番台になったんですけど、まだまだチャンスはある。可能性があるから会社も残していると思うんです。その黒瀬ともうひとり砂川(砂川リチャード)が右の大砲候補ですよね。この2人が何をすべきかというと、バッティングでアピールしないとなかなか支配下になれない。コーチにも10のうち8は打撃に時間を費やしてやらせてほしいとは言っています。

「全員がライバル、蹴落とすくらいの気持ちを持て」


今季から育成契約の黒瀬。不退転の覚悟で今季に臨んでいる


――若い選手を教える難しさは?

藤本 ありますね。僕が高校から入ったころは、やらされてるという感じだったんですよね。いまの選手はやらされてるという意識があんまりないのかな。やらなくちゃいけないのかな〜?と、後ろに全部クエスチョンマークが付くんですよね。時代も変わってきています。僕らの時代はウエートトレーニングなどでも、あまり興味がなかった。いまは特に1年目の選手たちは野球の実技に加えて体力強化もしなければいけない。体はクタクタだと思います。その中で、少しの時間でいいから復習をしてほしい。一日の反省じゃないですけど今日はバッティングでここがよかったからもう一度やってみよう、守備のここが悪かったからもう少しやってみようと。そういうことを反復する10分、15分が欲しいんですよ。

――主体性という部分では、いまの選手たちはいかがですか。

藤本 なんとか支配下になってやろうという、その気持ちが弱いと僕は思います。中には強いヤツもいますよ。全体的に、俺はソフトバンクの選手だという感覚が強いのかな。一軍はもちろん二軍にもいい選手は多いですけど、100番台はその下ですからね。「2ケタ番号になってからやれよ」と思える言動が目につく選手も多いですよ。

――ハングリー精神を養ってほしいと。

藤本 例えば、野手全員がライバルというぐらいの気持ちを持ってほしいわけですよ。ケガ(右わき腹痛)で抹消中の福田秀平(※5月25日に一軍復帰)、彼なんかガツガツしてますよ。いま周東が活躍しているから、やっぱりライバルだと思っていますよね。早く治さなければと、すごい気持ちでやってると思います。そういう気持ちが三軍の選手に必要かなと。この人がいるから無理だと思ったら、それで終わってしまう。蹴落とすくらいの気持ちがなかったらダメだと思うんですよ。

「思いついたときにすぐに練習できる施設」


――独立リーグ、社会人、大学相手に試合もやっていますが、格下のチーム相手に戦うときの意識はいかがですか。

藤本 僕は絶対に負けてほしくないです。現実には10勝6敗2分け(取材日の5月10日現在)。これは言い訳じゃないですけど、独立リーグの中にはスカウト注目の157キロぐらい投げるピッチャーがいるんです。そういうピッチャー相手に手も足も出ないじゃダメなんですよね。「ドラフト候補を打たないと君たちは上がっていけないよ」とは言ってます。

――遠征の移動はやはり過酷ですか。

藤本 バスで8〜9時間は当たり前ですからね。先日は、ナイター終了後にバスに乗って、ここに着くのは朝方。やっぱり過酷だと思いますよ。腰の張りも生じるでしょう。でも、一軍と同じ快適な移動をさせていたら選手はうまくならないですよ。夕食のメニューひとつとっても一軍はステーキ、二軍は焼き肉、三軍は豚肉。バイキングにしても一軍が30種類あったら、三軍はせいぜい7種類ですから。それぐらいの差はありますよ。いいものを食べたかったら、飛行機に乗りたいんだったら一軍に行けよということですよね。

――すごくシンプルですね。

藤本 僕も会社のこのシステムはすごくいいと思います。いまの三軍の中にもそういう環境が嫌な選手はおそらくいます。逆に、「バスなんとかなりませんか」と言ってほしいんですよ。「じゃあ一軍に行けよ」と言えますからね。アメリカでもメジャー、3A、2A、1Aとあってギャップがすごいじゃないですか。じゃあ三軍が独立リーグ並みかといったら、プロですからこっちのほうが全然待遇はいいですよ。いずれにしても、それだけの線引きがあるということですよね。

――やはり大事なのはハングリー精神ということでしょうか。

藤本 ガムシャラに、ハングリー精神をもっともっと出してほしいですね。

――ソフトバンクは育成出身の選手が活躍するのも分かる気がします。

藤本 この人を抜かないと一軍に食い込めないというケースがあるじゃないですか。いまはケガ人も多くて、どんどん入り込む余地がある。一軍の舞台に立ったときに、少ないチャンスで結果を出すのはなかなか難しいんですけど、例えば三軍の野村が二軍に行ってもスムーズに試合に入っていける。ガチガチになってバットが出ない、ということはいまの選手にはないですよね。それは三軍が毎日のように試合しているからじゃないかと思います。

――一軍、三軍の間にある二軍の組織の在り方はいかがですか。

藤本監督 柳田(柳田悠岐)、中村晃、上林(上林誠知)……これだけ一軍に故障者が続出したら二軍もいま大変ですよ。一軍で空いたポジションの選手を引っ張られるので、二軍に外野手がいない状態、三軍から引き上げた100番台の選手ばかりなんです。二軍は一軍予備軍ですからね。ケガしたら誰でもすぐに行って活躍できる選手を絶えず準備しておいてくれという組織。三軍は来年、再来年を見据えた選手が多い。そういう面では上と下に挟まれた二軍は厳しいかなと思います。

――ファームの施設は三軍の選手に好影響を与えていますか。

藤本 室内練習場を見てもらったら分かるように、夜寝るまで野球ができますからね。今日は速い球が打てなかったとなれば160キロのマシンもあります。野球漬けになれる施設。24時間態勢でカメラも作動していますから、誰がやっているのか一目瞭然ですし(笑)。

――そこまでチェックしてますか(笑)。

藤本監督 僕はそこまで細かくないです(笑)。でも、その中で休息というのは必要なんですよ。疲れ切った体で野球をやっても、いいパフォーマンスはできないと思う。睡眠は絶対に大事。その中で復習・自習をやってくれよと。

――監督としての抱負をお願いします。

藤本 基本的に練習は二軍がメーン球場、三軍はサブ球場を使いますけど、お互いに近くでやっている。その中で、二軍と三軍のコーチ同士の情報共有が一番大事だと思うんです。二軍と三軍のコーチから違うことを言われることが、選手にとって一番かわいそうなんですよ。僕も現役時代に一軍の打撃コーチが2人いて、どっちの言うことを聞いたらいいか分からなかった。そういうことはなくしていきたいですね。

――藤本監督の現役時代と比べて、この施設はいかがですか。

藤本 もう月とスッポンです。僕らのころは南海ホークスの中百舌鳥でしたけど、寮は古いし室内も2個所で打ってたらほかに何もできなかった。いまは寮の目の前に室内があって、思いついたときにすぐ練習できますからね。すごくいいことだと思います。

(ベースボールマガジン別冊薫風号『ファーム青春物語』より転載)

取材・文=佐藤正行 写真=BBM
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