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「大谷翔平は教育する必要がなかった」日本ハム育成ディレクターの若手育成論【前編】

 

甲子園のスターを数多く獲得してきた。ダルビッシュ有中田翔大谷翔平、そして今年は吉田輝星。そんな日本ハムにおいて、2011年から勇翔寮選手教育ディレクターとして人材育成に携わってきたのが本村幸雄氏だ。神奈川・光明学園高の元体育教師という異色の経歴の持ち主。同氏の教育論に迫った。

大切なのは「自立」と「自律」


2013年、ドラフト1位で日本ハムに入団した大谷


――選手育成ディレクターというのは、具体的にどんな仕事なのでしょうか。

本村 基本的には野球以外の部分での若手の育成のサポートになります。

――寮生は何人いるのですか。

木村 28人です。高卒は5年、大卒・社会人は2年、勇翔寮で生活させますので育成対象選手になります。ただ、一軍に所属する選手ももちろん出てきて、こちらは札幌の寮に入りますから、勇翔寮には常時20人くらいですね。

――日本ハムには高校時代に活躍したスター選手が入ってくるケースが多い。一日も早く一軍で活躍したいという思いもあると思います。

本村 甲子園で活躍した選手たちですから、もちろんみんな自信は持って入ってきます。実際に、吉田輝星も「一軍で勝ちたい」と目標を明確に書いています。ただ、プロに入ってくればやっぱり1年生なので、レベルの高い選手たちが集まっている中で、そのギャップは必ずある。そのへんで焦りが生じて即一軍というところに視点がいかないように、球団の育成方針の中でしっかりと話をして、段階に沿って上がっていくという取り組みはしています。しっかり土台を作らせて、ということですね。もちろん野球の技術もそうですけど、社会人になったわけですから人間性の面でもプロ野球選手として最低限、守らなければいけない常識がある。両面で成長を促していくことがファイターズの育成方針のひとつであります。

――目標設定は、どんなふうに課しているのですか。

本村 用紙を渡してシーズン開幕前、オールスター明けの後半戦が始まる前に目標の修正、オフシーズンをどう過ごすかの目標を書かせています。大谷(翔平)なんかも最初から「5勝」と書いていました。具体的な目標を数値化するのはすごく大事なことだと思っています。

――日本ハムの若い選手には、自由でのびのびとしたイメージがあります。

本村 僕の教育目標の中にも「じりつ」というのがあるんです。「じりつ」には2つあって基本的には自立してほしい。その一方で律することもしてほしいという両面です。やっぱり自分で何かできないと。言われたことだけやってればいい世界ではない。そこは高校の部活動とはまったく違う。もちろん、プロでも土台作りは絶対に大事だと思うので、その幹を太くしていってプラス、枝葉は自分で考えるしかない。そこは個性であり、その個性を長所に勝負していく世界だと思いますから。

野球のための犠牲をいとわない


――自分で考える才能を持っている選手もいれば、周囲から誘導されたほうがいい選手もいるかと思います。

本村 そのへんは僕一人で教育しているわけではないので、球団が組織として選手を教育していく。僕はいつも思っているんですけど、ファイターズの強みは組織力です。全体として、一人の選手に対してどう育てていこうかということを本当に明確に考えている球団なので、いまの状態があると思います。二軍の監督さん、コーチもそうですし、みんなでしっかり育てようという意思統一がなされています。

――その中で2つの「じりつ」を、と。

本村 最終的には、ロールモデルではありませんが、ああいう選手になりたいという手本になってほしいですね。野球だけじゃなく人間的にもそういう社会貢献ができる選手に一人でも多く育ってもらうのが最終目的。そういう意味では大谷などはしっかりしています。後輩たちがああいう選手になっていきたいと思えるほど人間性も高い、野球の技術もさらに高い。もちろん、誰もが大谷のようになるというのは無理ですけど、プロ野球選手である以上、目標は高くもってほしいですね。

――大谷選手はどこが違ったのですか。

本村 野球に対する情熱は僕も一番だと思います。結局、野球のためなら犠牲にするものがたくさんある。普通、先輩に誘われたら少し気が揺らぐことがあるじゃないですか。それが高卒1年目からいっさいなかったです。「今日はやることが決まっているので、すいません先輩」と言える選手だったんです。社会人1年目で、なかなかいないですよ。そのへんの意識の強さ、タイム・マネジメント能力がものすごく高い。やることを決めたら絶対に崩さないんです。たとえば、取材が入っても、そこで練習時間が削ることなく、その分、後ろに30分ずつずらしていく。そして決めたことをやりきるという能力が抜群に高かった。これは間違いなくビッグな選手になっていくなという予兆が最初からありました。ですから正直いって僕なんかそんなに教育してないですよ。する必要がない。あとはサポートするだけだったので、なかなかいないです。

<「後編」へ続く>

(ベースボール別冊薫風号『ファーム青春物語』より転載)

取材・文=佐藤正行 写真=BBM

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