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「ヤンチャぶりが改善された選手も」日本ハム育成ディレクターの若手育成論【後編】

 

甲子園のスターを数多く獲得してきた。ダルビッシュ有中田翔大谷翔平、そして今年は吉田輝星。そんな日本ハムにおいて、2011年から勇翔寮選手教育ディレクターとして人材育成に携わってきたのが本村幸雄氏だ。神奈川・光明学園高の元体育教師という異色の経歴の持ち主。同氏の教育論に迫った。

「門限はあるが点呼は取らない」


イースタン戦、ベンチ前で円陣を組むファイターズナイン


――寮の規則もあると思いますが。

本村 寮則があります。ただ、ウチは禁止の一点張りではないんですよ。自分で責任を持って行動させていきたいので。もちろん時間提示はしています。たとえば寮の門限は平日ですと翌日にゲームがあるときには10時30分。休前日だけ12時。門限はあるんですけど、点呼を取るということは、ウチはいっさいやらないです。

 結局、なぜ時間を決めているかということを考えてほしいんです。10時半ということは、次の日にゲームがあって、そこで帰ってこなければ野球に支障が出るわけじゃないですか。そこを考えたら門限がなくても平気ですよね。ただ、その目安として10時半までに寮に入って明日の準備をしてくださいという。実際、ほとんど外出する人間はいません。たとえばイースタンの6連戦中のどこかで食事に出かけるという選手は育成対象選手の中ではいませんね。制約を設けているところはあるんですけど、自分で守る、自分で決める行動をさせるようにしています。

――縛っているわけではないのですね。

本村 正直、学校教育でもそうなんですけど、禁止にすることは簡単なんですよ。これ禁止、あれ禁止。でも、それが本当に教育かといったらそうじゃないと思うんです。じゃあ、そのルールがなくなったらおそらく野放しになってしまう。それまでルールで締め付けていただけなので。ファイターズはそういうことをしたくないという球団で、栗山(栗山英樹)監督も「自分で考えろ」という方ですので。

――そういうスタンスというのは、選手を信じないとなかなかできないと思います。

本村 そこは信頼関係なので。あの監督さんがいて、いまのファイターズはみんなで頑張っていこうという面が見られるので、手前みそですけど、ホントに素晴らしい球団だなと思いますよ。

――いまの時代はそういうほうがむしろいいのでしょうか。

本村 子どものころから怒られて育っている選手はあんまりいないと思うんです。ただ、強豪校から来ている選手は、話を聞くとそれなりに叱られています。ですけど、昔の理不尽な叱り方はされてないですよね。それこそ僕らの現役のころのように、上からのトップダウンで、監督さんが怖くてビクビクしながらやるという時代ではないので、比較的やりやすいと思います。

年3回の目標設定に日々の日誌


――大谷(翔平)選手とは違うケースで、逆にてこずった選手もいたのでしょうか。

本村 いますね。昔から見てきた担当記者さんが「高校時代からは想像できない」と言うほど、ファイターズに入ってヤンチャぶりが改善された選手も実際にいます。逆にいうと、高校のときにそれだけ個性が出ていた。要は、集団で何かをするという感じではなかった。突出していて派手、高校時代の監督さんも手に余るほどだったんですけど、スカウトのほうで本質的な部分で芯がしっかり通っているから絶対によくなると。なぜそういう行動をとっているかということをしっかり見抜いてスカウティングしています。

――その芯というのは、もう少し具体的にいうと、どんなところですか。

本村 やっぱり野球に対する姿勢というか、その選手に限っては、野球でなんとかお金を稼ぎたいというハングリー精神、ガッツがものすごくあったんです。初対面のときから光るものを感じたので、それが悪い方向に行かないようにレールを敷いてあげればいい。そこで個性を殺してしまったのではまったく意味がない。スタッフさんとぶつけることもあるかもしれませんけど、裏側にはそういう本質があるんだということをみんなで理解してサポート、そして野球で活躍することで成長させていきました。いまのウチのチームリーダーです。

――それが、組織力ということですね。

本村 そういうチームです。書きものもウチは多いので最初は大変だと思います。目標設定以外にも、日誌を2年目まで毎日提出。朝起きたら体操が終わって朝食の前に体重、体温も毎日必ず書き込む。ちょっといま調子がよくないなとか状態が分かります。それは全部オープンで置いてあるので、監督さん、コーチも気になればチェック。月に一回、栄養士との面談もあります。トレーニングとも一体化。技術、体力、栄養、教育と、すべてがホントにシステム化されてるんですよ。

――グラウンドの監督、コーチだけが選手を作り上げているわけではない。

本村 学校教育でいったら校長先生がいて、担任がいて、教科担当がいる。ですので監督さんは野球の技術と戦略、僕らのような育成スタッフは人間教育、体力を作るのがトレーナーさん、その下に栄養士さん。すべてをひっくるめる校長先生、吉村(浩)GMがいらっしゃいます。そんな学校が出来上がっている感じです。

――本当に教育現場なんですね。

本村 ひとつの組織になっている球団なので、仕事がやりやすいです。

<「完」>

(ベースボール別冊薫風号『ファーム青春物語』より転載)

取材・文=佐藤正行 写真=BBM
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