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高校野球リポート

佐々木朗希抜きで大船渡が準決勝へ進めた理由とは?

 

「なれ合いの集団ではない」


久慈高との準々決勝を延長11回の末に突破(6対4)。三塁ベンチから声を出し続けた大船渡高・佐々木は喜びを体全体で表現した


 佐々木朗希(3年)がグラウンドに立たなくても大船渡高が勝てた要因。その答えは4月29日、大船渡市内で行われた共同記者会見にあった。

 佐々木が岩手県内の強豪私学ではなく、自転車通学圏内の県立校・大船渡高を選んだ理由は「中学時代から地元のメンバーとやってきて、この仲間となら甲子園に行ける」と確信したからである。

 大船渡一中時代、地域選抜チームの「オール気仙」(KWBボール)で一緒に戦った10人が大船渡高へ。ほかのメンバーも顔なじみであり、チームワークはどこにも負けない自負がある。決して「仲良しグループ」ではない。

 2017年から大船渡高を率いる國保陽平監督は4月29日、約50人が集まったメディアの前でチームの“内情”をこう語っている。

「なれ合いの集団ではなくて、勝利を目指すために、議論を活発にしている。長いときは部室で話し合いは1〜2時間。腹を割って話せるところが、彼らの良い部分だと思います」

 1年夏、2年夏と大船渡高が敗退した県大会3回戦で、佐々木の登板機会はなかった。中学時代からの成長痛などの影響で、無理ができなかった。國保監督は佐々木の体調を確認しながら、大事に育成した。勝利よりも将来を優先。その方針は2年秋も変わらなかった。

 初めてエース番号を着けた同秋。東北大会出場まで「あと1勝」とした盛岡大付高との準決勝で、166球の力投も5対7で敗れた。試合後、佐々木は号泣。その一戦にすべてをかけていたことは明らかだった。翌日の3位決定戦(対専大北上高)は先発回避。大船渡高がリードした終盤のピンチで救援も、逆転負けを喫し事実上、センバツ甲子園を逃した。

 佐々木が投げなければ、勝てない。チームとしては最もつらい「声」だったはず。一冬明けた今春の県大会1回戦(対釜石高)も、佐々木の登板がないまま、チームは初戦敗退を喫している(佐々木は外野手として出場)。春はあくまで、夏への布石。2番手以降の投手育成が目的ではあったものの、不安がなかったと言えばウソである。

佐々木は「第二の監督」


 高校生とは、短期間で信じられない急成長を遂げるもの。春から夏にかけて、大船渡高のチーム力も変貌を遂げていた。

 その契機は今年4月、佐々木が高校日本代表第一候補として参加した国際大会対策研修合宿である。佐々木が「高校生史上最速」となる163キロを計測したことがクローズアップされることが多いが、実は大きな収穫を岩手へと持ち帰っていた。国内トップレベルの高校球児と接した3日間。グラウンドだけではなく、日常生活における意識高い取り組みを、チームへと還元したのだ。それが、國保監督が明かす、選手間の「2時間ミーティング」となり、夏への肥やしとしたのだった。

 ある野球部OBはこう明かす。

「高校生の中に一人、プロがいる。佐々木君はグラウンドマネジャーです」

 佐々木は投げている際はもちろんのこと、外野で守っているときにも、野手のポジショニングを的確に指示する。ベンチでも攻撃前には、相手投手の攻略のヒントを伝える。円陣ではいつも、中心にいる「第二の監督」だ。

 真価が問われた夏。4強進出をかけた久慈高との準々決勝で、佐々木はベンチスタートだった。最速160キロを計測した前日の4回戦(対盛岡四高)で延長12回、194球を投じた疲労を考慮し、國保監督は登板回避を選択している。負ければ終わりの夏において、難しい決断であったはずも、ここまで貫いてきた「信念」を曲げるわけにはいかない。

勝利の校歌を歌う大船渡高ナイン。延長11回に決勝打を放ったのが主将・千葉(左端)である


 前日には延長12回に決勝2ランを放つなど、佐々木は四番としてもチームの中心選手であるが、この準々決勝での出場機会はなし。大船渡高は部員58人全員で戦いを挑み、延長11回に及ぶ死闘を制した。佐々木は三塁ベンチで声を張り上げて、メンバーを鼓舞。助言の一つひとつが、出場選手の大きな勇気となったのは言うまでもない。

 4対4の11回表に決勝打を放ったのは主将・千葉宗幸(3年)。チームの結束力をさらに高める意味でも、これ以上ないチームリーダーのタイムリーであった。投げては先発・大和田健人から和田吟太へとつなぐ3年生右腕リレーが決まり、エース・佐々木を休ませることができた。

試合後の取材。この日も多くの報道陣が注目右腕・佐々木を取り囲んだ


 準決勝に進出するのは2006年以来、13年ぶり。35年ぶり2度目の甲子園まであと2勝である。中1日で準決勝を迎えるが、その相手は3回戦でV候補・盛岡大付高を破った一関工高。中2日で佐々木は先発マウンドに上がるのか――。あるベテランスカウトは「194球で160キロ。かなり、体に負担がきているはず」と警鐘を鳴らす。國保監督が下す決断は? 佐々木が投げなくても、勝てることを証明した大船渡高。「甲子園」と「将来」の狭間で、悩ましい日々が続いていく。

写真=藤井勝治
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