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夏の甲子園名勝負

回るタオル。9回裏に姿を見せた甲子園の“魔物”/夏の甲子園名勝負

 

いよいよ第101回大会を迎える夏の高校野球。1915年、つまり大正4年に始まり、昭和、平成という時代を経て、この夏が令和最初の大会でもある。昨夏、平成最後の大会となった100回までの長い歴史の中で繰り広げられた名勝負の数々を、あらためて振り返ってみる。

試合中盤から主導権は八戸学院光星に


サヨナラの生還を果たした選手を中心に東邦の選手たちが歓喜を爆発させる。7回以降の7点差逆転、4点差のサヨナラはいずれも史上最大差タイ


「甲子園には魔物が棲む」とは、よく言われることだ。どうやら、その“魔物”は多種多様であり、手を変え品を変え、高校球児に襲いかかる。そんな“見えざる手”のようなもので球児を翻弄する“魔物”は実に用心深いようで、その正体を突き止めるのは困難だ。

 そして、誰もが予想だにしなかった方向へと試合の流れを一変させ、多くの場合、歓喜に目前まで迫っていた球児に涙を与え、涙を流しかけていた球児には歓喜を与える。そんな“魔物”が、ここまで露骨に、その姿を現した一戦があっただろうか。2016年の夏、東邦と八戸学院光星との一戦、9回裏。甲子園の詰めかけた大観衆が“魔物”となって、八戸学院光星ナインに襲いかかった。

 似た光景は07年の夏、佐賀北と広陵の決勝でも見られた。ただ、この夏は、いわゆる“がばい旋風”が吹き荒れていて、試合が始まる前から佐賀北を後押しする雰囲気も少なからずあった。しかも試合は決勝だ。だが、この16年の試合は、まだ2回戦。大会の幕が開けて8日目と、日程的にも中盤だった。

 試合の序盤は競り合う展開。1回表に八戸学院光星が1点を先制すると、2回裏には東邦が同点に。3回表に八戸学院光星は一挙3点を奪ってエースの藤嶋健人(現・中日)をマウンドから引きずり下ろしたが、その裏には東邦が1点を返す。4回は、ともに三者凡退。ここから試合は八戸学院光星のペースとなる。

 5回表には、先制の内野安打を放った五番の花岡小次郎が、この日5打点目となる2ラン。7回表にも3連打に敵失で3点を追加する。この時点で八戸学院光星が9対2と7点のリード。だが、東邦もあきらめない。その裏には四番の藤嶋が二死から2点適時打。8回裏には一死から犠飛で1点を返し、点差を詰めていく。9回表の八戸学院光星は無得点。東邦の粘りも光ったが、まだまだ4点ビハインドと、試合の主導権は八戸学院光星に残っていた。

東邦が9回裏二死から4連打


 そして迎えた9回裏。甲子園の雰囲気が明らかに一変する。東邦のブラスバンドによる演奏に合わせるかのようにスタンド一帯から手拍子が起こり、無数のタオルが回り始めた。

 東邦は先頭打者で一番の鈴木光稀が左安打で出塁し、一死後に二盗。三番の松山仁彦が適時打を放つ。続く四番の藤嶋は中飛に倒れて二死となるも、そこから4連打。一気に5点を奪って、サヨナラ劇を完成させた。

 9回4点差からのサヨナラ勝利は史上最大差タイ記録。勝者となった東邦だったが、続く3回戦で姿を消している。


2016年(平成28年)
第98回大会・2回戦
第8日 第3試合

八戸学院光星 103 020 300  9
東邦     011 000 215X 10

[勝]松山
[敗]櫻井
[本塁打]
(八戸学院光星)花岡

写真=BBM
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