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FOR REAL - in progress -

悔しいから、進化する――国吉佑樹と武藤祐太の静かな情熱/FOR REAL - in progress -

 

優勝を目指して戦う横浜DeNAベイスターズ。その裏側では何が起こっているのか。“in progress”=“現在進行形”の名の通り、チームの真実の姿をリアルタイムで描く、もう一つの「FOR REAL」。


 マウンドに上ると、196cmの巨躯はいっそう大きく見える。
 8月4日、ジャイアンツ戦の8回を託されたのは国吉佑樹だ。
 ボール、ボール、ボール。3つ続いてスイッチが入った。心と体のバランスを危うくも保ち、直球をゾーン内に突き刺して、最後は156km。白球は、振り出されたバットヘッドの上を通過した。
 リードはわずかに1点。一人の打者の出塁が糸口となり、容赦なき反撃につながる可能性は十分にあった。イニング先頭の重信慎之介を退けた後も、若林晃弘山本泰寛と、塁に出せば厄介な打者は続く。
 それでも、ギアの上がった国吉の力が勝る。若林には155km、山本に対してはこの日最速の157kmがラストボールとなった。3者連続空振り三振。大きな男は深い息を吐きながら、悠然とマウンドを降りた。
 9回は山崎康晃が8球で終わらせ、リーグ最多の25セーブ。5回1失点で踏ん張った先発の今永昇太は2年ぶりの2ケタ勝利に到達し、試合後は、通算1000安打を達成した石川雄洋が仲間たちの笑顔に囲まれた。
 押し寄せた歓喜の波がいったん引き、ふと順位表に視線を落とす。
 首位は変わらずジャイアンツ。だが、横浜スタジアムでの3連勝で、一時は「10.5」まで開いたゲーム差が「0.5」にまで縮まった。
 巨人とは名ばかりに遠く小さく見えた背中が、いま、すぐ目の前に迫っている。

「次の結果」で取り返すしかない。


 リリーバーの記憶は常に、抑えた快感ではなく、打たれた悔しさに占められる。
 今シーズン、36試合に登板してきた国吉は、3カ月前の試合を挙げて「あれがナンバーワン」とつぶやいた。
 5月8日の新潟。ジャイアンツを相手に5-1で迎えた7回、流れは転じる。
 この回から登板した三嶋一輝が1点を失い、なお2アウト満塁となったところで国吉に声がかかった。しかし、押し出しの四球、走者一掃のツーベース、さらに四球を与えて降板。次打者のスリーベースで、残した走者も生還した。


「流れが向こうに行きかけたところでぼくにチャンスが回ってきて。結局、アウト一つも取れずに逆転されてしまった」
 翌日、三嶋とともに広島まで長い移動をした。国吉が思い返す。
「どう悔やんでも、もう一球、投げ直せるわけじゃないので。移動の間、三嶋さんと『次からが大事だよね』という話をしました。次の(カープとの)カードで投げる機会があったんですけど、3人でスパッと終えることができた。切り替えという意味ではうまくできたんじゃないかと思います」
 失点する試合あり、圧倒的な投球を見せる試合ありと、調子の波は上下する。それは見方を変えれば、「次の結果」で取り返すしかないリリーバーの苦闘の痕跡だ。無念の四球を与え、点を奪われ、失いかけた信頼を、必ず自らの手で取り戻してきたからこそ、今年の国吉は一軍の舞台に立ち続けることができている。
 開幕から夏真っ盛りのこの時期まで、一度の離脱もなく一軍に帯同し続けるのは、10年目にして初めてのこと。疲労との向き合い方は、避けがたい課題になる。
 トレーナーや、一軍でフルシーズン戦った経験のある同僚にアドバイスを求めながら、コンディショニングの試行錯誤を続けているものの、7月に入ってからは苦しんだ。月別の防御率は5.56と振るわず、奪三振率もほかの月に比べてガクンと落ちた。


成功体験をなるべく多く。


 7月23日、甲子園でのタイガース戦で、国吉は同点の9回、そして延長10回と、失点即サヨナラ負けの2イニングを乗り切った。
 9回は先頭の近本光司にいきなりヒットを打たれている。沸き立つスタンドに囲まれながら、国吉は落ち着いていたという。
「その日のミーティングで、木塚(敦志)コーチから話があったんです。『甲子園はヒット一本ですごく盛り上がるから、歓声に圧倒されない準備をしてからマウンドに上がるように。ホームにさえ帰さなければ、また次のイニングで攻撃できるんだから』と。たしかあの時のぼくは、そんなにいい状態じゃなかったけど、1つずつアウトを取ろうということだけを考えてマウンドに上がったのがいい結果につながった。成功体験をなるべく多く重ねることがいまは大事だと思うし、(復調への)きっかけだったかもしれない」
 8月3日のジャイアンツ戦は、好調さをたしかに感じさせる投球内容だった。
 8回、S.パットンが2点差を追いつかれて降板。E.エスコバーを挟み、2アウト一、三塁の場面で国吉は投げた。打席にはA.ゲレーロがいた。
 マウンドに歩み寄った嶺井博希は「ランナーは走ってくるだろうけど、気にせず、バッター勝負で」と声をかけた。
 目の前の1アウトに集中する――。甲子園で胸に刻んだ思いを再確認し、スタートを切った一塁走者には目もくれず、強打者と対峙した。
 この対戦で投じた7球のうち、6球がカットボールだった。国吉は言う。
「その前の試合ぐらいからカットボールがすごくキレてて、スピードも出ていた。過去の対戦でもカットボールで三振を取ったことがあったし、ストレートも使いつつ、勝負球はカットボールになるだろうと思っていました」
 140km台の球速で鋭く曲がるカットボールを外角低めに集め、最後はファーストゴロ。狙いどおりの打ち取り方だった。
「今年はストレートもしっかり投げきれる自信があるし、カットボールも去年よりよくなってきている。まっすぐかカットボールか、バッターを迷わせることができているし、短いイニングなら、その2球種でなんとかいけるなと」

「ぼくなんかが」とは思わない。


 その裏にベイスターズが勝ち越し点を挙げたことで、国吉は今シーズン5つ目の勝ち星を手に入れた。少し恥ずかしそうに言う。
「5勝でキャリアハイって言われるのも、ねえ。大したあれじゃないんですけど」
 リリーバーを務めるいま、勝利数はさして重要な指標にはならない。だがたしかに、国吉はキャリアハイの状態にあると言える。「いまがいちばんいいですか」と尋ねられ、苦笑交じりに答えた言葉がその証だ。
「10年もやってて、いまがいちばんよくなってないと、いままで何やってたんだって言われますからね」
 8月3日の試合では、同点打を浴び降板したパットンが、ベンチで冷蔵庫の扉に怒りをぶつける場面があった。翌4日には登録を抹消された。
 セットアッパーが戦線を離れるという事態に直面し、国吉に課される役割も変わる可能性がある。新たな境地を切り開きつつある27歳は言った。


「パットンに限らず、今年は三上(朋也)さんも手術で離脱している。ぼくらからしたら、ポジションが空いたという見方もできるし、チャンスでもある。そのポジションに割って入っていこうとするのか、『そんなポジションじゃ投げられないよ』と思うのか。それによって、ピッチングの内容や結果はすごく変わってくると思う。チームのことを思えば、みんなでカバーしていければ、また(パットンらが)戻ってきた時に、厚みが増したチームになる。いい状態で戻ってくるまで、なんとかカバーしてやっていきたいなと思います」
 以前の国吉は、「投げているボールに自信が持てず、バッターとの勝負以前に自分自身と勝負しているところがあった」という。だがいまの国吉は違う。これまでパットンが投げていた8回のマウンドに行けと言われて、「いや、ぼくなんかが」とは思わない。任せろという気持ちでブルペンを飛び出せる。
 8月4日、1点リードの8回に3者連続の三振を奪ってみせたあの試合で、男はそれを証明した。

戦力外を機に、生まれ変わった。


 パットンの離脱によって、武藤祐太が担う役割もまた、いままで以上に重みをもってくる。
 2017年、7年間在籍したドラゴンズから自由契約となり、「ベイスターズに拾ってもらった」。当時の心境を、こう振り返る。
「ドラゴンズでの最終年(2017年)に懸けてはいたんです。でも一度も一軍に呼ばれることはなくて、ファームでも大差がついた場面でしか投げさせてもらえなかった。その悔しさもあったし、先輩たちからは『まだやれよ』と声をかけてもらっていました。ベイスターズには感謝の気持ちしかないです」
 移籍1年目の2018年には、20試合に投げた。久々に一軍のマウンドを踏んだシーズンは「あっという間に終わった」。必死の思いと充実感が、時を忘れさせた。


 そして移籍2年目となる今シーズン、武藤の「進化」を指摘する声は多い。
 球速アップを話題にすると、30歳は表情を崩す。
「それ、みんなに言われるんですけどね。ベイスターズに入った時に、みんな球が速かったので。そこは何とかしないとやっていけないなと」
 昨オフの自主トレで、田中健二朗とともにウェイト中心のメニューに取り組んだ。「年も年なんで」。バランスを整え、ケガの予防につなげると同時に、自分の力を最大限に出せる肉体をつくってきた。
 懸けていたという2017年の努力も結実した。ファームでも腐らず懸命に日々を過ごしていた武藤は、トレーニングに時間を割いていた。積み上げてきたものが形になり、今シーズン、ストレートの最速は150kmに迫る。スピード自慢のブルペン陣にあって、まったく見劣りしないボールを投げられるようになった。
 もう一つの進化は、配球にフォークを組み込んだことだ。これも、新天地で活路を開くための努力から生まれたものだという。
「ドラゴンズの時はシュートとスライダーでやってたんですけど、何か一つ、ひと皮むけたいなという思いがあって。戦力外になって練習をしている時に、やっぱり何かしら変えないとダメだと思って、ずっと取り組んでいたフォークをもっと落ちるようにしようと。落ち球が使えるようになって、幅が広がったと感じています」
 今シーズンは15試合に登板して、防御率は1.33。シュートとスライダーに加え、速球で押し、フォークで振らせる。まさしくニュータイプに生まれ変わった武藤はいま、ブルペンの重要な戦力と数えられるまでになった。

「むーさんは貴重だから」


 武藤は今シーズンの印象深い登板として、6月22日のイーグルス戦と、7月21日のドラゴンズ戦を挙げた。
 イーグルス戦は、初回を終えた時点で7-6になるという異例の展開となった試合だ。6月20日に2度目の一軍昇格を果たしたばかりの武藤は、2回から3イニングを任された。1安打5奪三振の好投を見せ、荒れた試合に落ち着きを取り戻した。
「あそこでぼくが、『結果を出さなきゃいけない』とか、自分のことしか考えずにやっていたら、ダメな方向に行ったと思う。キヅさん(木塚コーチ)に『一球一球、集中して投げてこい』って言われて、その一言で腹がくくれました」


 一度は戦力外を味わった身。今シーズンは4月29日に一軍登録されながら、5月9日に抹消された。来年もユニフォームを着られるかどうか、プロ野球選手が無縁ではいられない危機感は、武藤の場合、ことさら強いだろう。
 だが、木塚の一言が武藤の心を打者に、1つのアウトに向けさせた。大切なものを思い出させてくれたからこそ、あの登板は印象深いのだ。
 そしてドラゴンズ戦。意図したとおりの投球ができた実感が、その試合を忘れがたいものにしている。
 先発の大貫晋一が5回を投げ終えた時点で、スコアは5-2。6回から救援した櫻井周斗が、回をまたいで7回のマウンドにも立った。しかし、ヒットと四球でノーアウト一、二塁。ここで武藤の出番はやってくる。
 マウンドに向かうと、捕手の伊藤光にこう言われた。
「初球、シュートいける?」
 武藤は迷わずうなずく。そう言われると思っていたのだ。
 武藤と伊藤は同じ1989年生まれ。近い時期に他球団からベイスターズへと移籍してきた境遇も重なり、仲がいい。その伊藤がよく言ってくれる言葉がある。
「むーさん(武藤)は貴重だから」
 貴重とは、数少ないシュートの使い手であり、かつシュートを操るのが最もうまいという意味だ。あのドラゴンズ戦、ブルペンで、堂上直倫の打席に合わせて登板する準備をしながら、「初球、シュートのサインが来るだろうな」と読んでいた。
 打ち合わせたとおりに投じた初球のシュートで、堂上をショートゴロに打ち取った。続く打者も三振、サードゴロで退けて、20歳がつくったピンチをこともなげに片づけた。
 武藤は言う。
「やっぱりドラゴンズに打たれたくないし、負けたくもない。去年、初めてのドラゴンズ戦では、相手の中継ぎが出てくると、つい心の中で応援してしまうところもあったけど、いまはやさしさを押し殺してやってます。いちばん負けたくないです、ドラゴンズの選手には」

「戦い終わったら『おっしゃー!』みたいな」


 ベイスターズに来てからの変化は、球速や球種だけではない。武藤はこんなことを言う。
「ドラゴンズの時も野球は好きで楽しかったんですけど、いまはそれ以上に、楽しいなって純粋に思えます。それに去年と比べて、ブルペンで“家族感”が出てきている。パットンがああいうふうにやられて自分も悔しいですし、クニ(国吉)や(三嶋)一輝が抑えると素直にうれしい。一体感があって、ぼくとしてはそれがすごくいいなって思ってます」


 ルーキーだった2011年、当時在籍したドラゴンズはリーグ優勝を果たした。翌2012年には、CSのマウンドを経験した。
 首位に肉薄したいま、あのころの気持ちがふとよみがえる。
「もう一回、投げたいですね」
 とはいえ、先行きに楽観の視線を向けることはしない。101試合を終えて、残りは42試合。あるべき心の持ちようを、武藤はこう説く。
「自分としては、ずっと一軍にいられるようにがんばりたい。チームとしては順位を気にせず、1つでも多く勝って、戦い終わったら『おっしゃー!』みたいな。そういう感じがいいなと思います」
 国吉も、気持ちは同じだ。
「シーズンの最後まで一軍で投げ続けて、1試合でも勝ちに貢献できるように。監督がいつも言うように、『どう始まるかではなく、どう終わるかが大事』。ここからの試合が『どう終わるか』というところにつながってくると思うので、自分自身、気持ちを締め直してやっていきたいなと思います。みんな口には出さないですけど、いいところ(順位)で野球ができていることは感じてます。チーム一丸となって戦っているのがベイスターズらしいし、一戦必勝でやっていけたら、おのずといいところに行けるんじゃないかと思っています」
 猛烈なペースでジャイアンツとの差を縮めてきたが、3位カープもぴったりと追走してきている。
 最後、先頭でゴールテープを切るのはどこか。
 ヒートアップする真夏の戦い。まずはカープとの直接対決3連戦で、鯉の勢いをしっかりと食い止めたい。

『FOR REAL - in progress -』バックナンバー
https://www.baystars.co.jp/column/forreal/

国吉佑樹 選手名鑑
https://www.baystars.co.jp/players/detail/1000007

武藤祐太 選手名鑑
https://www.baystars.co.jp/players/detail/1000140

写真=横浜DeNAベイスターズ

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