日本中が注目する甲子園。現地で取材を行う記者が、その目で見て、肌で感じた熱戦の舞台裏を写真とともにお届けする。 内角へズバッとストレート
堀越高OBの井端氏が8月6日、夏の甲子園の始球式(八戸学院光星−誉)に登場。見事なストライク投球にスタンドは沸いた(写真=宮原和也)
華やかな始球式も、当事者にとってはセレモニーではない。「真剣勝負」の場だった。
8月6日、夏の甲子園が開幕。開会式後の第1試合(八戸学院光星−誉)で侍ジャパン・
井端弘和内野守備走塁コーチが内角へズバッとストレートを決めた。始球式とは思えない鋭い球筋に、スタンドからはどよめきが起きたほどである。
「左打者なら攻めていこう、と。右打者ならばコントロール重視でしたが……」
相手打者は、八戸学院光星のプロ注目の遊撃手・
武岡龍世(3年)。左バッターに対して「良かったと思います」と思いどおりの投球ができたという。かつて選手、コーチとして在籍した
巨人・
坂本勇人の高校の後輩で、しかも同じ遊撃手であり「良い選手というのは聞いたことがある」と、事前に情報をキャッチ。そして「ちょっと、ムキになったところもある」とニコリと話した。
人生初の始球式である。この日のために万全の調整を進めてきたという。「1週間前にキャッチボールをこなし、そこから中5日。休み肩を作って……。調整はバッチリです」と胸を張った。
負けられない理由。そこには「伏線」があった。
日米大学選手権第5戦(7月21日、神宮)で
高橋由伸氏が始球式を務めた。その際、意識していたのが昨夏の甲子園で始球式を務めた
松井秀喜氏だった。「昨年、松井さんが甲子園で引っかけていたので、自分はあの辺(ストライクゾーン)で良かったと思う。神宮はホームなので良かったのかな」。高橋氏の投球を受けて今回、井端氏は「あれよりも、良いボールを投げよう!!」と、現役コーチとしての意地を見せたのだった。
始球式の目的は、来年の東京五輪を見据えてのもの。無事に大役を終えた井端氏は、侍ジャパンが果たすべき役割として「子どもたちに『野球がやりたい』と思えるように。(東京の)次のオリンピックはありませんが、その次(2028年のロサンゼルス)では復活させて、そこを目指して野球を続けてほしい」と野球普及へ、力を注いでいくことを誓った。金メダルを目指す「真剣勝負」は、1年を切っている。
文◎岡本朋祐(週刊ベースボール編集部アマチュア野球班)