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2019夏甲子園

[甲子園・記者コラム]花巻東・野中にとって“大船渡・佐々木朗希”は近くて遠い

 

日本中が注目する甲子園。現地で取材を行う記者が、その目で見て、肌で感じた熱戦の舞台裏を写真とともにお届けする。

自分の進む道を、自らの意志で選んできた


花巻東高の右腕・野中大輔(背番号10)はかつての「仲間」の思いも背負って、夏の甲子園のマウンドに立った(写真=高原由佳)


 中学時代の仲間が地元・大船渡高でのプレーを選択する中、右腕・野中大輔は花巻東高へ進学。その理由は「野球以外の面でも成長できる」というのが第一。そして、心技体を鍛えた中で「甲子園へ行けるのは私学かな、と。強い思いがあった。雄星さん(菊池雄星、現マリナーズ)、大谷さん(翔平、現エンゼルス)の存在も大きいです」と、大舞台のマウンドを夢見て、越境入学している。

 大船渡一中で1年時は投手だったが、2年時にコーチからの助言もあって二塁手へ転向している。コンバートの決め手は何か?

 ともに大船渡一中から大船渡高へ進学することになる佐々木朗希と和田吟太の2人の右腕と比べて、野中は「球速、制球を含めて劣っていた」からだという。中学3年時、腰痛に苦しんでいた佐々木はマウンドに上がれず、一塁手。エースは今夏、大船渡高で背番号10を着けた和田だった。

「朗希は気持ちを前面に出して、自分から声かけをして、心強い存在でした」

 冒頭の事情で、高校は佐々木とは別の道へと進んだ。野中は当初、花巻東高で周囲のレベルの高さに戸惑うばかりだった。入学当時は119キロ。菊池、大谷も地道に取り組んだとされる下半身、体幹トレーニングにより、球速は136キロへアップ。2年秋の花巻地区予選で初めてベンチ入り(背番号10)すると、3年春の同予選は初めてエース番号「1」を背負い、公式戦での登板機会に恵まれた。背番号11だった今夏の県大会での登板はなかったが、カーブ、スライダー、チェンジアップを交えた投球でコンディションを上げてきてきた。自身初の甲子園へ万全の準備を進めてきた。

「スピードよりも、コントロールを意識している」

 今夏の最大の話題は、大船渡高・佐々木が花巻東高との決勝で「故障防止」のため登板回避したことに尽きるだろう。野中は「自分たちはとにかく、甲子園に行きたかった。(登板回避については)しょうがないかな……」と慎重に言葉を選んだ。岩手大会決勝以降は連絡を取っていない。最後にコンタクトしたのは、今春の県大会前だという。

「(4月上旬の国際大会対策研修合宿で)163キロを出してすごいな〜と、メッセージを送りました。朗希も甲子園を目指していて、自分も負けられないと思っていました」

 花巻東高は鳴門高との甲子園1回戦で敗退(4対10)。野中は3対9の9回表から救援マウンドに立った。「大差で負けていたので、自分が流れを呼び戻したかった」と意気込んだが、2安打で1失点を喫している。

「ブルペンでは良かったんですが……。この舞台で力を出し切る難しさを感じました。緊張した中で、フォームがバラバラになった。でもこの大観衆で投げられて幸せでした」

 試合前は多くを語らなかった野中。だが、実は今回の甲子園に対して、かつての仲間への特別な感情があった。試合後に涙をこらえながら、こう明かしている。

「大船渡の分まで、マウンドに立てて良かった。朗希は甲子園に出られなかったので『朗希の分も!』という思いはあった。でも、甘くはなかった。実力不足です」

 野中にとって、同じ岩手でライバル校同士で戦った「佐々木朗希」とはどういう存在だったのか?

「中学のときはチームメートで身近な存在でしたが、高校で離れてからは遠い存在、はるか上の存在という感じです」

 野中は今夏の甲子園での貴重な経験を経て、卒業後は大学で野球を続ける予定だ。そして、夢がある。

「東京ドームの大観衆の中で投げたい。プロとは違った独特な応援が魅力的です」

 社会人野球の最高峰・都市対抗野球で活躍することが自ら描く将来のビジョンである。実際に現場で観戦したことはないが、時間があれば動画サイトで戦況をチェックしてきた。自分の進む道を、自らの意志で選んできた野中の未来には、大きな可能性が広がる。

文◎岡本朋祐(週刊ベースボール編集部アマチュア野球班)
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