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2019夏甲子園

[甲子園・記者コラム]9回一死満塁、日本文理によみがえった10年前の決勝の記憶

 

日本中が注目する甲子園。現地で取材を行う記者が、その目で見て、肌で感じた熱戦の舞台裏を写真とともにお届けする。

日ごろから甲子園を意識


2017年秋から母校を指揮する日本文理・鈴木崇監督は、指揮官として初の甲子園出場。関東一との1回戦では初戦敗退も、全力で戦った選手たちをねぎらった(写真=牛島寿人)


 2009年8月24日。新潟高校野球界にとって、忘れられない日である。中京大中京(愛知)との決勝。6点を追う9回二死から1点差に迫る猛攻も、あと一歩及ばず準優勝(9対10)。新潟県勢として初のファイナルへ進出した日本文理の最終回の粘りは毎年、夏が来るたびに語り草となっている。

 今大会、初めて責任教師(部長)としてベンチ入りする金子慧部長は当時、日体大の大学院生として、テレビにクギ付けとなっていた。郷土の高校の活躍は誇らしかった。

「新潟の高校が決勝で堂々と戦っている。そんなことがあるのか? と。大井監督(道夫、現総監督)と鈴木コーチ(崇、現監督)は当時から有名でした。OBである鈴木コーチが大学(東洋大)を卒業し戻ってきてから、大井監督とのコンビで強くなったと聞いています。まさか10年後、私がここ(甲子園)にいるとは想像もできませんでした」

 金子部長は新潟・加茂高出身(一塁手兼投手)で、日体大では準硬式野球部に在籍。大学院を経て明桜(秋田)のコーチとしてキャリアを積み「故郷の新潟で、恩返しをしたい」と、縁があって2017年、保健体育科の教員として日本文理に赴任した。

 大井監督は17年夏限りで勇退し、同秋から鈴木コーチが監督に就任。実際に指導現場の中に入ってみると、09年夏の快進撃の理由が分かったという。鈴木監督は長らく寮監として、生徒の合宿生活から徹底的に指導。安定した日ごろの取り組みが、結果的にスキのない野球につながることを強調していた。

「緻密で繊細。いつも生徒の前では『甲子園、甲子園』と、甲子園を前提とした話をします。甲子園大会における行動はすべてにおいて早いですから、来てから慌てるのでは手遅れになります。一番、興味があったのは『甲子園の住所知っているか?』と。行きたい場所ならば、興味を持てということですが、細かい部分まで突き詰める指導者。その根底で『全国制覇』を目標とさせています」

 今夏は2年ぶり10回目の出場。そして、あの夏から10年。部員たちに当時の映像を見せることはないというが毎年、高校野球シーズンになれば、各メディアが取り上げる機会が増え、自然と目に入ってくる。「各自がDVDを持っているようで、個人的に見ることもあるようです」(金子部長)。

チーム不変の目標は「全国制覇」


 鈴木監督が指揮する、初めての甲子園。6対10で迎えた9回表、日本文理の攻撃である。やはり、10年前の記憶がよみがえってくるのか、何かが起きそうな気配が漂う。スタンド、そして一塁アルプスも同様である。イニングのアタマから名物応援歌『さあ行きましょう』が流れ、ナインは後押しを受けて反撃開始。3つの四死球で一死満塁の好機だ。場内の拍手は、次第に大きくなる。一塁ベンチの鈴木監督も薄々、察知していた。

「10年前はスタンドで見ていました。これ(ユニフォーム)を着ていますから、騒ぎたくても騒げない(苦笑)。あの場面で拍手をいただけたのも、10年前のことがあったからかも……。ありがたいことに、先輩からつながれた『文理』という名前でやれている。1点入ったら、というところでしたが……」

 後続2人が倒れて、奇跡は起きなかった。

「これが、甲子園の9回だな、と。この雰囲気を味わえたことが幸せ。物語というか、そういった甲子園での戦いを通じて、次の世代で克服できるように練習していきたい」

 2019年8月10日。鈴木監督は「これを題材にステップアップしていく」。日本文理にとって忘れない日となった。甲子園での敗戦を糧に、再出発を誓う。

「ここに来て、勝たないといけない」

 チーム不変の目標、新潟県勢の悲願でもある「全国制覇」への挑戦は終わらない。

文◎岡本朋祐(週刊ベースボール編集部アマチュア野球班)
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