週刊ベースボールONLINE

2019夏甲子園

[甲子園・記者コラム]佐々木朗希との対戦を糧にして成長した作新学院主将

 

日本中が注目する甲子園。現地で取材を行う記者が、その目で見て、肌で感じた熱戦の舞台裏を写真とともにお届けする。

先制犠飛に2つの四球


9年連続出場の作新学院・石井は兄と同じ主将・遊撃手としてチームをけん引。センバツ8強の筑陽学園を下して、3年ぶりの初戦突破を決めている(写真=牛島寿人)


 甲子園よりも、地方大会を勝ち上がるほうがプレッシャーはかかると言われる。勝って当たり前――。周囲からの応援は励みになるが、高校生が受け止めるのは難しい。9連覇がかかった栃木大会前。2016年夏に全国制覇へ導いた小針崇宏監督は重圧を和らげるためにこう、指示を出している。

「『9』ではなくて『球』に集中していこう」

 球児からすれば、ホッとする一言である。作新学院は11年からのV9を達成。主将・石井巧は「監督の言葉があって、リラックスして戦うことができた。結果的につなぐことができたのはうれしいことです」と語ったが、内容に満足していない。甲子園常連校が考える次元はかなり、高い位置にあった。

「勝ち切ったのではなく、負けなかった。甲子園では勝つこと。甲子園では負けないことを目標に『チーム作新』としてやってきた。調子? 調子というのは、高校生にない」

 なぜ、勝ち切れたのか?

「春負けて(県大会準々決勝敗退)3年生全員でチーム状況を見直した期間があったんです。技術ではなくて、気持ち。きつかったですが、精神的に成長できました。腐りかけた人もいましたが、自分はチームがあるべき姿勢を話してきたつもりです」

 作新学院は甲子園で全国制覇を遂げて以降、17、18年と初戦敗退。石井の代は甲子園で校歌を歌った経験がない。「四番・遊撃」で出場した筑陽学園との初戦(2回戦)では初回の先制犠飛に2つの四球を選んだ。2点リードの9回に追いつかれるも、10回表に2点を勝ち越し、5対3で3年ぶりの初戦突破を決めた。「初回、序盤3回が1試合のカギを握る」と語ったとおり、作新学院が得意とする先制攻撃で主導権を握り、終盤の粘りも光った。

現日本ハムの兄も主将


 チームとしては打席内で「優位」に立てる要因があった。3月末の練習試合で大船渡(岩手)と対戦。石井はドラフト目玉右腕・佐々木朗希(3年)との直接対決で2三振を喫している。その日の最速は156キロ(4月に自己最速163キロを計測)。「高校生とは思えない。タイミング、スイングの形と、勝負にならなかった」。シーズンインの段階でトップレベルの投手と対峙できたことが、自身の課題と向き合う機会となった。

 石井の兄・一成(早大−日本ハム)は12年夏、弟と同じく主将・遊撃手として8強進出。岩嶋敬一部長はこう明かす。「兄がいての主将。重荷、プレッシャーは相当だったはず。非常に素直な性格ですが『弟は弟』という意識もあり、兄の話をすると『僕は石井です!』と自己主張してくる。気持ちの強い子です」。目標としていた甲子園での校歌もまだ通過点である。石井は熱く語る。

「一人ひとりに力があるわけではない。今までやってきた積み重ね、野球への思いで勝負していきたい」。コメント一つひとつに気持ちが入っている。兄弟を通じ6年指導を受けてきただけに、石井の口調は小針監督に似てきた。岩嶋部長にその話を振ると「確かに、そうかもしれません」と苦笑いを浮かべた。

 3回戦以降も、リーダーシップ抜群の主将・石井を軸に、作新学院の真骨頂である攻める姿勢を貫き「負けない野球」を実践する。

文◎岡本朋祐(週刊ベースボール編集部アマチュア野球班)
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング