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2019夏甲子園

[甲子園・記者コラム]新しい“牛鬼打線”を築く! 宇和島東を率いる上甲正典元監督の2人の教え子

 

日本中が注目する甲子園。現地で取材を行う記者が、その目で見て、肌で感じた熱戦の舞台裏を写真とともにお届けする。

現状は“子牛鬼打線”


「UWAJIMA EAST」。懐かしいユニフォームが9年ぶりに甲子園の舞台へ戻ってきた。このユニフォームを見ると伝統の「牛鬼打線」を連想するのも不思議な感覚だ(写真=宮原和也)


 牛鬼打線。

 9年ぶりの復活出場を遂げた宇和島東は、かつてのスタイルと今風とをアレンジしながら、甲子園の舞台へ戻ってきた。

 今年4月に就任した同校OBの長瀧剛監督は1997年、外野手として春夏連続で甲子園出場。88年春のセンバツ初出場初優勝へ導いた上甲正典元監督の教え子である。就任から1カ月後、心強い“仲間”が加わった。

 宇和島市内に勤務する長瀧監督の同級生・繁森優氏が5月、外部コーチとして支える立場になった。

「あうんの呼吸ですよ。苦しい3年間を過ごした仲間ですから」

 繁森氏は97年春に三塁手、同夏には右翼手として甲子園の土を踏んでいる。同期13人を代表して指揮官を強力サポートする。

 初めて練習を見て、時代の流れを感じた。

「練習量が少ないな、と。われわれが在籍していた当時は一番から九番まで本塁打が求められていた、まさしく『牛鬼打線』でした。毎日、1000スイングがノルマ。1980年代に『やまびこ打線』として甲子園を席巻した蔦文也監督の池田高校(徳島)にならって、パワー野球を突き詰めていました」

 現役部員にとっては過去の栄光。だが、全盛時を知る周辺はどうしても「牛鬼打線」のイメージを追い求めてしまうもの。2014年春、池田が春27年ぶりの復活出場を遂げた際も、現役部員にはかつての「やまびこ打線」が期待され、やや戸惑っていたのを思い出す。昭和、平成のファンからすれば、宇和島東もそう映ってしまう。「令和版・牛鬼打線」とはどんな形なのか?

「一発パコーン! というのはありません。ここぞというときに点を取れる打線です」(繁森コーチ)

 長瀧監督は部員へのさらなる奮起を求める現状では「子牛鬼打線」と呼ぶ。就任から4カ月での甲子園出場を遂げ、長滝監督のイズムが現役部員に浸透している。アルプスで声援を送る控え部員はこう補足する。

「昔からパワフルな打線が伝統としてあり、今も『見せてやろう』という思いは強いですが、監督はバントやスクイズを使ったり、『ゲームに勝つための野球』を目指しています。そして、相手のスキを突いていく」

帽子の「E」マークに込められた思い


「牛鬼打線」の復活は宇和島市を活気づけた。昨年は豪雨災害を受け、夏恒例の「牛鬼まつり」が中止に追い込まれた。今夏は2年ぶりに開催(7月22〜24日)され、30日に「ヒガシ」(地元での呼称)が9年ぶりの甲子園出場を決め、地元は盛り上がった。

 宇和島東の魅力と言えば、特徴的なユニフォーム。繁森コーチは「上甲監督はオシャレだったんですよ」と明かす。胸の「UWAJIMA EAST」は牛鬼打線の象徴と言える。長滝監督の就任を機に、今夏からホワイトからアイボリーに戻し、帽子の「E」マークは金色になった。指揮官の「全国で一番になりたい」との思いが込められている。

 宇部鴻城との初戦(2回戦)では3対7と敗退し、21年ぶりの勝利を挙げることはできなかったが、新たな足跡を残したのは確か。

 5回には兵頭仁(3年)がかつての牛鬼打線を思い出す、豪快な左中間への本塁打を放っている。「牛鬼打線? 高校に入るまでは意識をしたことはなかったんです……。実際にボールを打つよりも、投手が投げてくるイメージでスイングしてきた成果が出ました」。5点を追う9回裏には、得意とするつなぎで1点を返し、意地を見せている。

 今夏、宇和島東が甲子園を決めたのは、全国49地区で徳島と並んで最も遅い7月30日だった。甲子園入りするまでバタバタしており、上甲氏の墓前で報告するのは大会後と決めていた。繁森コーチは懐かしそうに語る。

「実は私たちのときは『上甲スマイル』ではありませんでした。チームカラーによって使い分けていたそうです。呼ばれるときは『来い、我(われ)』と……。厳しかったです。褒められた記憶なんて、1度もありません。私と長滝は現役時代に甲子園を経験していますが、指導者の立場では目に入る風景もまったく違う。上甲監督の偉大さを痛感した」

 さらに、こう続けた。

「オールドファンだけではなく、新しいファンにも応援していただけるようなチーム作り。新しい牛鬼打線を築き上げていきたい。ただ、今日の敗因は細かい部分。一つひとつ課題をつぶしていきたいと思います。この雰囲気で、いかに落ち着いてプレーできるか。経験は必要。2年生以下も多く、どう受け止め、今後に続けていくことが大事です」

 恩師・上甲氏はどんな顔で2人を出迎えてくれるのか。

「笑顔? 絶対に、あり得ませんよ。怒られたほうが、次のステップへ向けては良いと思っています」

 繁森コーチは今から試合以上に“ヒヤヒヤ”している。

文◎岡本朋祐(週刊ベースボール編集部アマチュア野球班)
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