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夏の甲子園名勝負

延長25回、4時間55分の死闘/夏の甲子園名勝負

 

いよいよ第101回大会を迎える夏の高校野球。1915年、つまり大正4年に始まり、昭和、平成という時代を経て、この夏が令和最初の大会でもある。昨夏、平成最後の大会となった100回までの長い歴史の中で繰り広げられた名勝負の数々を、あらためて振り返ってみる。

86年前の夏に繰り広げられた一戦


1933年夏準決勝、中京商対明石中のスコアボード


 第101回目となる2019年、夏の甲子園。今年の夏も熱く、そして暑い。この連載は過去を振り返って「名勝負」を選出して紹介しているものだが、それは結果論に過ぎず、一戦一戦の真剣勝負を否定するものではない。もちろん、これは今年の夏も同様だ。しかも、この暑さ。結果として「名勝負」と評されるような展開にならなかったとしても、それらを「死闘」と表現しても違和感はないだろう。

 今年の夏も、岩手大会決勝で大船渡の“令和の怪物”佐々木朗希が登板することなく敗れたことが議論を呼んだ。「甲子園のためなら死んでもいい」と思うのは若さの証明であり、明日を見据えて今日の死闘を回避させるのは老練なる者の役目だろう。1人のために8人の夢を潰えさせてはならない一方、8人の夢のために1人の人生を犠牲にしていいはずがない。さまざまな事情が対立する中で、ひとつの解答を導き出さなければならないわけだから、議論が過熱するのも当然といえる。

 また、これがプロ野球であれば、ファンの要望に応えていくことを優先するという選択肢もあろう。ただ、高校野球は教育の現場だ。どれほどの観客が球場に詰めかけようとも、野球は球児たちの現在、そして未来のためのものでなくてはならない。球数制限についての議論であっても、球児たちのための議論だ。間違っても心ない言葉を球児や指導者に投げかけることは慎まねばなるまい。

 今回、紹介する試合は、時代を大きくさかのぼり、戦前の1933年、昭和8年の一戦だ。これまではランニングスコアを末尾で紹介してきたが、今回は途中で紹介してみたい。

1933年(昭和8年)
第19回大会・準決勝
第8日 第2試合

明石中 000 000 000 000 000 000 000 000 0 0
中京商 000 000 000 000 000 000 000 000 1X 1
(延長25回サヨナラ)

[勝]吉田
[敗]中田

「時代が違う」だけなのか


 中京商(現在の中京大中京)と明石中(現在の明石)による延長25回、4時間55分の激闘を、中京商はエースで右腕の吉田正男、明石中は急遽マウンドに上がることになった背番号8の“左腕”中田武雄が、ともに1人で投げ抜いた。スコアボードを継ぎ足しながら迎えた延長25回裏、無死満塁から中京商は一番の大野木浜市が二ゴロも、三走の前田利春が好走塁で本塁へ突入してサヨナラ勝ち。中京商は平安中(現在の龍谷大平安)との決勝も制して史上初の夏3連覇を達成した。

 現在は延長13回以降は無死一、二塁で始まるタイブレーク制を導入しているため、この試合は再現不可能だろう。再現してもいけない。同時に、最先端のスポーツ医学だけを武器に、よく言われる「時代が違う」の一言で一蹴できるほど簡単な試合でもない。過去を賛美し、現在を嘆くだけでは、未来につながるとも思えない。

 もちろん、時代は違う。当時は現在のように甲子園球場がヒートアイランドのド真ん中に建っているわけでもなかっただろう。当時の球児たちにとって最高の未来が「お国のために死ぬこと」だった、とんでもない時代だった。時代の違いも多様だ。歴史に学ぶ姿勢を欠いては過去を超克できようはずもない。この先人たちが青春を懸けた一戦は、86年後の現在に、多くのことを語りかけている気がする。

写真=BBM
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